明治初期に欧米から輸入された畜力用農業機械

1871(明治4)年、開拓使次官の黒田清隆は、北海道を拓くには外国の技術の導入が不可欠と考え、アメリカの農務局長であったホーレス・ケプロンを開拓顧問兼御雇教師頭取として招聘しました。ケプロンは、寒冷な北海道においては畑作と酪農の混同農業が適していると判断し、広大な農地に対応できる洋式畜力農具を利用した営農体系を提言しました。写真1の農機具群は、ケプロンの提言を受け1871-73年に北海道開拓使が輸入した洋式農具で、開拓使札幌官園で利用されていたものを1876年に札幌農学校の農黌園の開設時に移管したものであり、畜力洋式農法の起点となるわが国で最も古い農機具標本です。

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[写真1]初期の輸入農具(モデルバーン2階) ①自動掻落し式リーパ(麦刈り機) ②ダンプレーキ(集草機) ③孤輪車 ④砕土機 ⑤抜根機 ⑥歩行型プラウ⑦乗用プラウ

写真2は、1877-82年に札幌農学校が輸入した、大規模農場な混同農業を営む上で必要となる畜力用農機具です。鍬鋤類219丁、人力砕土機10丁、プラウ24台、ハロー類11台、播種機7台、草刈機類131台、調製作業機5台などの国内に例のない一連の装備群です。

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[写真2]初期の輸入農具(モデルバーン2階) 畜力用プラウ群

初期の農用エンジン、トラクタ、作業機

我が国において、農作業の動力源が畜力からエンジン(発動機)に移行したのは20世紀に入ってからです。定置式の石油発動機を輸入し、トウモロコシの脱粒機(北海道)や灌漑用のポンプ(岡山県)を駆動したのが始まりと言われています。その後は、エンジンや電動モータが国産化され、籾摺り、精米など主として定置式の作業の動力源として普及しました。 戦後は、食糧増産の社会的要請を背景に機械化が進展し、圃場を移動する動力源としてのトラクタおよびその作業機が数多く輸入もしくは国産化されました。当農場の建物内には、明治後期の輸入エンジンをはじめ、戦前に輸入されたトラクタ、初期の国産トラクタ、開発初期の田植え機やコンバイン等合計42種の動力機械とプラウや播種機、施肥機等の13種のトラクタ作業機が収蔵、展示されています。

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[写真3]輸入エンジン(牝牛舎1階)

写真3は、1916(大正5)年から数年以内にアメリカから輸入されたわが国初の農業用エンジンです。左は1.5馬力、右は3.5馬力の水冷単気筒火花点火式ガソリンエンジンで、それぞれゼット式、アルファ式と称されました。これらを参考にして1921年(大正10)にはカドタ、トバタ、山岡発動機(ヤンマー)、久保田鉄工等が石油発動機を国産化し、全国に急速に拡大しました。

牝牛舎1階左翼には、1925年前後に輸入された鉄車輪トラクタと1950年代に北海道に導入された一連の乗用トラクタ6機種が展示されています(写真4)。これら導入によって国産機が開発され、乗用トラクタを基幹とする農業が一般化しました。ここには、Farmall-Cub、Lanz Bulldog、New Ford、Holderなど、日本のトラクタ農業の道を拓いた貴重な標本群が展示されています。また、開発初期の各種歩行トラクタ、田植え機、自脱コンバインも展示されています。

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[写真4]乗用トラクタコレクション(牝牛舎1階)

日本全国の鍬

穀物庫の1階には、北海道から沖縄まで、明治時代に使われた全国の鍬を展示しています。 明治中期までの日本の農業は、畜力を用いない人力のみの農作業が一般的で、鍬と鎌は万能の作業具として必須のものでした。特に鍬は、耕起、砕土、畦立て、溝切り、覆土、中耕、畔塗り、溝さらえ、収穫時の堀取り用具となり、1年中手放せない農具でした。 鍬の柄は、軽くするために樫などの堅い木で作られています。土に対して仕事をする刃部は、すべてが金属製の「金鍬」と先端のみを金属とし台座を木製とする「風呂鍬」に区分されます。また作業内容より、耕す(耕起)を主体とした唐鍬や備中鍬に代表される「打鍬」、溝切りや培土などに向いた「引鍬」、両者の折衷型である「打引鍬」、その他の「特殊鍬」に分類されます。日本の鍬は、地域の作物や栽培法に合わせて作業性が良いように、かつ人の体格に合うようになど様々な工夫がなされ、世界にない独特の発達を遂げました。 ここに展示されている鍬は、札幌農学校の時任一彦教授により収集された鍬約180点からなっています。天草鍬、肥後鍬、佐賀鍬、頚城鍬、野州鍬、江戸鍬、秋田鍬等の地域の名を冠した鍬が分類、整理されており、全国最大規模の鍬収蔵施設です。また、当時アメリカから輸入した鍬も展示され、和洋の比較をすることができます。

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[写真6]展示されている全国の鍬(穀物庫 1階)

その他

それぞれの建物内には明治以来北海道に導入され進化を遂げた古い農具が、年代別に整理され展示されています。

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[写真7]人力砕土機、播種機(穀物庫2階)

穀物庫2階

人力用の砕土機、人力用播種機(写真7)、水田用直播機、人力管理機、畜力用中耕・除草機、わが国で初めて製造された散粉機20種。

種牛舎2階

1940年前後に北海道で製造されたボトムプラウ全80機種。(見学には事前申し込みが必要)

収穫室1階

明治から1960年代までの稲麦の収穫・調製作業の発達経過を示す標本群。各種稲刈機、麦用バインダ、唐竿、千歯、各種脱穀機、篩篭類、石臼、精米機、万石、製縄機、莚編機など。(見学には事前申し込みが必要)