概要

img_insect_01昆虫体系学とは、昆虫についての分類学、系統学、進化学を統合した学問分野。昆虫は最も繁栄した陸上生物であり、環境保全、生物多様性の観点からも重用な研究対象である。膨大な種を擁する昆虫には、農業害虫、衛生害虫も多く含まれる。北大総合博物館では約200万点の豊富な昆虫標本を研究材料にしながら、主に分類学を中心に研究がすすめられている。昆虫コレクションデータベースの作成も応用上欠かせない研究課題である。

テーマ

  • タイプ標本データベース構築
    約10,000点におよぶプライマリータイプ。日本で最大の数をほこる北大昆虫コレクション(SEHU)のタイプ標本を、すべて撮影し、関連情報をデータベースとして公開するプロジェクト。2011年現在、約4,000点が終了。
  • 北方圏における昆虫相研究
    オホーツキア・プロジェクトの枠組みの中で、国際千島生物相調査(IKIP)、国際樺太生物相調査(ISIP)が1995年から2005年にかけて行われた。これらの調査に、断続的に個別に行われてきた北海道の昆虫相研究、戦前の千島・樺太の昆虫相研究を追加する形で、北方圏の総合的昆虫相研究がすすめられている。研究の一部は、Biodiversity and Biogeography of the Kuril Islands and Sakhalin, vol. 1 to 3にて発表されている。
  • インドネシアにおける獣糞依存昆虫・節足動物の生物地理学
    獣の糞には、多くの昆虫が集まる。ハエ、コウチュウ、ダニなど。インドネシアでは、人の移動とともに家畜が移動し、従来大型ほ乳類のいない島にも牛が分布 し牛糞がもたらされた。さて、そこの牛糞にあつまる虫は、人とともに移動してきたのか、あるいは現地の(例えばサルの糞を食べていた)虫が新しい資源(牛糞)に寄せられたのか。「人と家畜と昆虫」の3者間の生物地理学的移動の歴史の解明が、ゴール。

今後の展望

昆虫標本に基づく研究は際限ない。日々開発される電子情報ディヴァイスは、昆虫の形態学、情報管理を飛躍的に発展させる。分子・遺伝子情報の解析は、より正確な昆虫の系統関係や同定を導きだし、「進化とは何か」を具現する。悪化する自然環境は不幸にも絶滅危惧種を増やすが、その標本は貴重な歴史の証拠として重要性を増す。環境と昆虫の関係を解明することは未来予測の可能性を上げることに他ならない。昆虫の研究はもっと必要で楽しくなるに違いない。