小林快次(研究部教授/古生物学)

「古生物標本の世界」展示室(右が新復元のニッポノサウルス骨格)

◉ニッポノサウルス:新復元骨格展示

ニッポノサウルスは、日本人によって初めて発掘・研究・命名された恐竜です。北海道帝国大学の長尾巧教授によって1934年(昭和9年)に当時日本領だったサハリンから発見され、1936年に命名されました。つまり、北海道大学は日本の恐竜研究の発祥の地であり、ニッポノサウルスは北海道大学が恐竜研究において先駆的な大学であるという象徴なのです。

ニッポノサウルスは、1934年に豊原(現ユジノサハリンスク)の北西30キロにある川上炭鉱(現シネゴルスク)で行われていた病院の建設工事現場に露出する白亜紀後期の地層から発見されました。早速発掘作業が行われ、採集された標本は北海道帝国大学に寄贈され、すぐさまクリーニング作業が行われました。それは、紛れもなく全身骨格化石でしたが、前肢がないことに長尾教授は気づきました。1937年の追加発掘により、四肢骨の大部分を発見し、全身の6割という完成度の高い全身骨格となりました。長尾教授の研究により、この恐竜が、ハドロサウルス科と呼ばれる植物食のグループに属すことがわかりました。

その約70年後に、当時北海道大学の大学院生がニッポノサウルスの再研究を行い、この個体は、成長しきっていない亜成体で、北米の恐竜に近い恐竜であるという仮説を立てました。そして、2017年、当時大学院生だった高崎竜司さんによって、さらなる研究が行われ、ニッポノサウルスが最低でも3歳であったことと、ニッポノサウルスに近い恐竜は、北米ではなくヨーロッパのものである、という新しい説を立てました。このようにして、北大ではニッポノサウルスの研究が受け継がれています。

現在、ニッポノサウルスのタイプ標本は、北海道大学総合博物館の収蔵庫に保管されています。展示されている復元骨格は、この実物標本から型取りをして組み立てたものです。以前当館に展示されていた復元骨格は、2000年に制作されたもので、全国に3体しか存在していませんでした。北海道大学、国立科学博物館、福井県立恐竜博物館の3つの機関に展示されています。これら全て、福井県立恐竜博物館が建設される時に復元骨格が作られましたものです。

2016年、サハリン州郷土博物館からニッポノサウルスの復元骨格を展示したいとの要望があり、世界で4体目の組立骨格を制作しました。その制作の際、当館に展示してあったニッポノサウルスを一度解体し、一つ一つの骨をもう一度型取りして復元し直すという作業を行いました。以前の復元で間違っているところを多数修正し、姿勢を変えたものに作り変えました。頭骨では、クチバシ(前歯骨)や目の周り、頭の上の方など5カ所程度修正し、より正確な復元骨格に生まれ変わりました。是非博物館に足を運んで、今と昔の違いを見比べてみるというのはいかがでしょうか。

新しいニッポノサウルスの頭骨

ニッポノサウルスの全身骨格

『北海道大学総合博物館ニュース』35号(2017年6月)6ページより