授業報告 博物館学特別講義 II 第6回 5月24日

第6回 5月24日



担当:山村高淑(観光学高等研究センター/アイヌ・先住民研究センター兼務)

 博物館の使命に1)資料収集、2)整理保存、3)調査研究、4)教育普及があるのは言うまでもない。だが、物質的価値を伴わない「無形文化遺産」をどう継承するかが、民族系博物館が抱える今日的な課題として存在する。例えば、ある町の風景全体を文化遺産と捉えた場合、館に収蔵できないそれは、どう継承・活用されるべきだろうか。そこで登場するのが「エコミュージアム」という考え方である。これは1971年フランス発の、エコロジー エコノミー エコール(学校) とミュージアムを繋ぎ合わせた造語である。住民の参加によって地域で継承されてきた自然・文化・生活様式を含めた環境を総体として、永続的な(持続可能な)方法で研究・保存・展示・活用を展開していく考え方である。

 この実践の1つとして、山村先生のグループは北大構内で「先住民ヘリテージ・トレイル」という取り組みを行っている。北大構内は、札幌農学校以降の開拓の史跡のみならず、サクシュコトニ川が育んだ続縄文文化・擦文文化・アイヌ文化期の遺跡が多数存在する、文化層が重なり合ったヘリテージである。そこで、既に北大キャンパス・エコミュージアム構想で提唱されているように、北大キャンパス中央に位置する総合博物館と埋蔵文化財調査室をガイダンス施設としての「コア」、構内に散在する文化遺産を展示対象=「サテライト」とし、これらを繋ぐ考え方が有効になる。そうして設けた構内の魅力の再発見を促す動線を、発見の小径=ディスカバリー・トレイルとするのである。トレイルは同時に、展示空間ともなる。「先住民ヘリテージ・トレイル」では、旅行者・一般市民がアイヌ文化に物理面・知識面・感性面からアクセスできるシステムを構築し、アイヌ文化の継承とアイヌ民族の権利回復への理解・支援の促進を目指している。

 この、アイヌ文化に関連した自然・文化の両資源を複合的に学ぶトレイル。本講義の真っ最中に、我々受講生は教室にいながらにして、この「探検」に「参加」した。講義資料として配布されたトレイル・ガイドマップ隅のQRコードを携帯で撮影すると、何と画像と音声が流れだしたのである。出席した学生7名全員が携帯電話経由でトレイルに足を運び入れ、ヴァーチャル探検の仲間となった。山村先生はおっしゃる ――「私の講義内容は忘れても、携帯経由で体験したこのエモーティブなアクセスは忘れないでしょう!それこそが我々のねらいです!!」

 先生は最後に、「ツーリズムの本質として最も重要な要素のひとつは『感性的な歓び・楽しみ』」と訴えられた。確かに、トレイルを旅する人がアクセスした情報に、感性的な歓びや楽しみが伴っていれば、皆はその情報を忘れにくい。ツーリズムとは本来歓び・楽しみを伴うもの。旅先の土地で訪問者と現地のモノ・ヒトが『歓び』ながら『交流』できれば、地域の人や文化は、訪問者の心に深く印象付けられ、訪問者は地域のファン・良き理解者になることだろう。ツーリズム研究の奥深さを知った90分であった。(理学院自然史科学専攻修士1年生 上林彰仁)