授業報告および企画レポート

博物館は、モノの展示を行うだけでなくそこから得られる知識やメッセージを来館者へ伝えます。

科学ジャーナリズムは、高度に専門化された科学を一般の人に理解できる内容として伝える役割を担っています。この授業では、博物館と科学ジャーナリズムを組み合わせ、論争的なテーマを博物館で扱う場合の企画を立案しました。科学のファクトを伝えるだけではすまない科学ジャーナリズムの役割について授業の中で考察し、ある見学者を想定して一人称で企画書を作成しました。
担当教員

小出 五郎[Goro KOIDE] (科学ジャーナリスト)

藤田 良治[Yoshiharu FUJITA] (総合博物館)

湯浅 万紀子[Makiko YUASA] (総合博物館)
集中講義

日程:2012年 9月24日から27日

場所:北海道大学総合博物館


企画には、「Something new」が大切です 小出五郎先生(科学ジャーナリスト)

 



研究は無脊椎ですが、本当は「骨」に興味があります 武田尚也くん
骨だらけ展

―命のカタチ、その機能美―


見学者ver.

見学者:11歳/男/理科は好きだが骨に対して特に強い関心はない/家族旅行で博物館を訪れる

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・会場に入る前に眼にしたポスターには沢山の骨が写っていた。普段骨を見る機会などないので、実際どんなふうだろう。

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・入り口に向かおうと歩くと、すぐ横のモニターの中を人間の骨が横切り、ぎょっとした。どうやら僕の体の動きに合わせて動いているらしい。いろんなポーズを取ってモニターの中の骨を動かして遊ぶ。

・会場入ってすぐに、沢山の骨が置いてあった。触っていいらしいので、色々手にとってみる。骨の表面は滑らかでスベスベしている。思ったより軽い。骨といえば真っ白だと思っていたが、実際は少し黄色っぽい色をしているようだ。頭の骨もいくつかあるが、どれも怪物みたいで、何の骨かはよくわからない。

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・全身骨格と剥製が沢山並んでいる。モニターに動画が流れている。並んだ標本の自然での生活を記録したものらしい。空を飛ぶもの、水中を泳ぐもの、草原を走るもの、木に登るものと色々だ。肉食動物も草食動物もいる。剥製は動物園や図鑑で見たことのある動物の姿そのままだが、骨の方は見たことがない。それぞれ全然違う形をした生き物だけど、骨も違う形をしてるけど、骨はなんだか統一感がある気がする。骨はそれぞれの生活に便利な形をしていて、同じ先祖から進化してこうなったらしい。随分いろんな形に変化するもんだなと思う。イルカの手のヒレには骨があるのに、背ビレと尻ビレには骨がないのが変な感じ。

・ヒト、イヌ、ウマ、イルカ、モグラ、コウモリ、鳥、ワニの手(前肢というらしい)の剥製と骨がある。骨はカラフルに塗られている。全部違う形をしているけど、同じ色で塗られた骨はもともとは同じ形の骨だったそうだ。数が合わない骨もあるけど、言われてみれば似たところもあるような気がする。ウマの指の長さに驚いた。中指一本の癖に太さも長さも脚の骨と変わらないじゃないか。人差し指と薬指はこんな太さじゃ役に立たないからなくてもいいと思う。あと鳥に指があることを知った。3本指だったのか。

・カラフルな頭の骨と剥製が色々並んでいる。草食動物も肉食動物もいるらしい。会場入ってすぐにあった触れる骨と同じものがあって、何の骨か答えがわかった。エイリアンみたいな一番グロいやつがウサギだったなんて。頭の形も色々だけど、やっぱり同じ色の骨はもともと同じ形だったらしい。それぞれの形は違うけど、配置とおおまかな形は同じだ。そもそも頭の骨はいくつかの骨がくっついてできたものらしい。肉食動物の歯はやっぱり釘やナイフみたいに尖っていた。草食動物の歯は奥の方は尖ってないけど、前の歯だけは鋭かった。

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・理科室にあるような人体骨格模型が歩きまわってて、またぎょっとした。関節に機械がくっついていて、ロボットになっているらしい。同じような仕組みでネコとシカとダチョウも歩きまわり、天井から吊るされた鳥とコウモリとイルカも動いている。骨のひとつひとつは硬いのに、骨格標本たちが滑らかな動きをしているのがなんだか不思議だ。

・顎や背骨、脚を自由に動かせるコーナー。背骨はそれぞれの関節はあまり曲がらないけど、全体としてはぐにゃぐにゃだ。ライオンやヒグマの顎はガッシリしていて、これならどんな獲物でも噛み砕けそうだ。後頭部のでっぱりに顎の筋肉がくっつくから、肉食動物の後頭部には大きな盛り上がりがあるらしい。シカの下顎は2つに割れてて壊しちゃったかと慌てたけど、もともと繋がってないらしい。繋がってないから下顎を左右にずらして葉っぱをすり潰せるそうだ。そういえば牛が草を咀嚼してるときも顎をずらしてるけど、あれも同じかな?脚はいろんな方向にうごかせるものと、そうでないものがある。ヒトの腕はいろんな方向に曲がるけど、シカの脚の関節は滑車みたいになっていて、ほとんど前後にしか曲がらない。ヒトはこんな骨だから器用で、シカはこんな骨だから沢山走れるらしい。

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・また骨を触れるコーナー。今度はどの動物のどの骨か書いてあり、同じ重さの日用品も隣に置いてある。改めて見た目より軽いことを実感。骨の中はみちみちに詰まってるわけじゃなくて、空洞があるから軽いらしい。

・鳥の骨の断面をルーペで観察できるコーナー。中はスカスカだけど、糸みたいに細い骨の中の骨が沢山ある。この構造があるから鳥の骨は軽くて丈夫で、体重を軽くして空を飛びやすくしているらしい。

・骨の中の空洞に骨と同じ成分の炭酸カルシウムを詰めたものと、詰めてない普通の骨が並んでいる。両手に持って比べてみると全然違う。もし僕の骨が詰まっててこんなに重かったら体が重くて大変だろう。

・手足の骨が並んでいる。なんと折ってみていいらしい。でも頑張って力入れたけど折れなかった。細いのだったらいけると思ったんだけどな。

・ゾウの脚の骨の上に乗れるコーナー。父さん母さん、僕と妹で乗ってみたけど、ビクともしなかった。クラスのみんなで乗ったら流石に折れるかな?と思ったけど、アフリカゾウの体重は7トンもあるらしいからきっと無理だ。

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・魚や鶏の翼、豚の脚など、小さいけど骨格標本がある。料理を食べた後残った骨から作ったものだそうだ。言われてみれば食事の時は骨と触れ合ってる。作り方が書いてある紙がたくさん置いてあったので貰う。自由研究はこれでいってみよう!

(理学院自然史科学専攻  修士1年 武田尚也)



来館者が博物館を出てからも色々頭の中で考えるモヤモヤ展示を作りたい 阪井陸真くん


「空はどこまでが空?-もやもやする疑問-」展を見て


私は男子大学生です。

この展示を知ったのは、広告ポスターを見たからである。ポスターは展示タイトルと場所・日時だけが載っており、背景は青空であった。タイトルの「空はどこまでが空か?」という質問は、私の今までの人生の中で、考えたことがありそうでない疑問だと思った。内容が気になったため、行ってみることにした。

展示会場に入る前に、「あなたの考える空とは?」と書かれた看板の下に、タブレット端末が置かれており、自由に自分の考えを書き込めるようになっていた。私はそこに自分の思う空について書き、展示会場に入った。

会場はドーム型の半球形で壁は一面ガラス張り、とても開いた空間であり、足元は一面に空の様子が映し出されていた。どうやら、足元一面がスクリーンになっており、現在の空の様子を映し出す仕組みになっているようだ。まるで空の中に浮いているような感覚を抱き、不思議な気持ちになった。

会場中央にはなにやら大きな機械があった。この機械は、人工衛星から私が立っているこの場所までをズームしてその映像を見ることができるというものであった。宇宙から見る地球は本当に青く美しく、そこからズームをしていくと、地球から日本、黒く暗い宇宙から、私のイメージする空である青色に変わっていき、雲を突き抜けて、見慣れた街の上空からこの展示会場、私の姿が見えた。自分の姿が見えたことに驚いたが、それ以上に宇宙と空に境界がないことに驚いた。

会場はこの大きな機械を挟んで左右に大きく分けて二つのブースに分かれている。一つは科学、もう一つは文化と分かれていた。

私はまず、科学のブースから見学した。入ってすぐのところに、「空の境界線は?」とタイトルが付けられた地表0mから高度∞まで記載された大きなボードが立てかけられており、見学者が自ら境界線を引くことができるようになっていた。私は前の人工衛星からの映像の衝撃が大きく、空の境界線を引くことに数分悩んでしまった。その後の展示では、科学的に空というものに定義はなく、地面からの高度ごとに様々な要素に注目して区分けをしていることを知った。そして、ライト兄弟の飛行機やアポロ計画など、古くから人間は空への憧れや探究心によって科学技術を発展していったことも併せて学ぶことができた。このブースでは、空は科学的に明確に区分されていないことが良くわかり、「空はどこまでが空?」は、答えがない問題であることに気が付いた。

次に、文化のブースを見学した。「空(くう)の思想」と題されたコーナーでは、(そら)と(くう)の関係。各思想・哲学における空(そら)の存在を知った。宗教や神話によって空の扱いが異なるが、偉大な存在であることは共通していた。他にも様々な国や地域の子どもが描く空の絵が展示されていた。中には空に戦闘機が飛んでいる絵を描いていたり、雲が空の大半を占めていたりする絵もあった。日本の子どもの絵は太陽や青空などの天気の良いものを描いていたが、この違いはなんだろうか。おそらく、戦闘機が飛んでいる絵を描いた子の国は争いが多発している地域であり、雲が多い絵を描いた子の地域では気候的に年間通して曇りの日が多いのであろう。いろいろ想像を膨らますことのできる展示で面白かった。この他にも文学に見られる空や空にまつわる言葉などの空の表現法も様々なバリエーションがあることを知った。空は暮らしている国や地域によってそこでの思想宗教・気候・戦争などの影響を大きく受け、人々の印象を変えるのだと思った。この展示を見ていろいろな国に行き、自分の目で空を見てみたいと感じた。

そして、二つのブースを抜けると大きなソファーが置いてあるスペースがあった。ここでは、空を見上げながら自由に寝そべったり、座って休憩をすることができた。空を見上げながら、この展示のタイトル「空はどこまでが空?」をもう一度考えてみると、空は科学的に定義されているわけではなく、文化的にも国や地域によって感じている印象が異なっている。いったい空とはなんなのだろうか。考えにふける時間ができ、展示内容を一気に咀嚼しようとしたため頭が混乱してしまった。頭の中に、もやもやが十分に溜まってしまったので、会場を出ることにした。出口にさしかかった時、大きなスクリーンが目の前に現れた。ここには、初めにタブレット端末に書いた「あなたの考える空とは?」の見学者たちの回答が映し出されていた。他の見学者の答えが見られて面白かった。答えはひとつではないことを改めて実感した。また、この見学者の回答はPC・スマートフォンでいつでも見られるらしく、家に帰ってからも、もやもやは続きそうである。

最後に物販コーナーを覗くと、様々な空を写したポストカードが売られていた。都市の幾何学的な空、田園風景と空、美しい夕焼け空など空にも形や色があると感じた。この他にも変わり種では、動物から見た空。例えば、トンボの複眼から見た空、魚が海中から見上げた空等。記念に数枚買った。

この展示は、サブタイトル-もやもやする疑問-の通り、見終わってもすっきりしないものであった。しかし、長い時間を思考に費やし、答えのない問題に取り組むということは、インターネットで検索すると大抵の疑問に対する回答がすぐ得られる現代において、とても大事なことなのではないかと考える。特に検索癖がついてしまっている私のような若者世代にはこの展示から学ぶべきことは多いだろう。ぜひもやもやするために来てもらいたいと思う。

おわりに、現代社会は情報で溢れかえっている。その中で他人の決めたシナリオを鵜呑みにするのではなく、自らが情報を取捨選択し、自分で自分の答えを導き出す必要があるという社会的メッセージを含んでいる展示であると私は思う。

(理学院宇宙理学専攻 修士1年 阪井陸真)




鳥の歌声を題材に進化に関する展示を企画してみたい 太田菜央さん


鳥の歌から分かること ——ヒトの言葉の進化をさぐる——


キャッチコピー

「言葉や音楽は、どこから来たのだろう?」

見学者

「私」は高校生の女の子。生き物はかわいいとは思うけどものすごく興味があるというわけではない。今回の企画展に来たのは、音楽を聞いたり本を読むのが好きで『言葉』『歌』『音楽』というキーワードが気になったのと、見かけたチラシの鳥の写真がかわいくて楽しそうだったから。友達2人を誘ってやってきた。

体験ストーリー

企画展に入る。入る前から鳥の声が漏れて聞こえてくる。

○ 鳥たちのコミュニケーション

最初の部屋に入ると、たくさんの鳥の写真が並べてある。(並べ方は近縁な種同士で固めてある)写真の下に、ボタンや画面が設置してある。ボタンを押すと、鳥の歌が流れる。画面にタッチすると、実際にその鳥が歌っている動画が流れる。種類によって行動が全然違う。見た目がきれいだったり、歌にあわせて踊ったりしてかわいいし面白いけど、ヒトの言葉との関連づけはよくわからない。

○ ヒトの言葉と鳥の歌

次の部屋には鳥が子どもから大人になるまで、ヒトの子どもが赤ちゃんから大人になるまでのそれぞれの過程を追った写真が貼ってある。それぞれの写真の横にボタンがある。ヒトの場合は、押してみると赤ちゃんの頃のよくわからない声と、大人になってはっきりしゃべれるようになるまでの過程がよくわかる。鳥の場合も同じで、大人になるにつれてだんだんはっきりと歌らしいものを歌うようになっていった。始めから歌えるわけじゃないんだ!とここでヒトの言葉と鳥の歌の共通点を見つける。

○ リズム感対決、鳥と人と猿の脳の違い

この部屋では動物とリズム感対決ができるらしい。相手はチンパンジーとセキセイインコ、キバタン(というオウムの仲間)から選べる。なぜ急にリズム対決なのかわからないけど、とりあえず友達とやってみたら盛り上がった。セキセイインコやキバタンが上手にリズムをとって手強いので驚いた。逆にサルはめちゃくちゃ下手で拍子抜け。隣の解説には、鳥とヒトは言葉や歌を学習するための神経回路が脳にあって、サルにはない。これがサルにリズム感がない理由らしい。難しいので全部は読んでないけれど、「音にあわせてリズムをとったり、演奏して音楽が楽しめるのは、言葉があるおかげ」と書いてあるのを見て私は人で良かったなあ、音楽が楽しめないなんてサルはかわいそうだなあ、と思った。

○ 鳥の歌はどうして進化したの?

ジュウシマツという鳥とコシジロキンパラという鳥の歌を聞いた。歌を比べてみると、ジュウシマツよりコシジロキンパラのほうがなんとなく音が曖昧で適当な印象を持つ。解説によるともともとこの2種は同じ種で、江戸時代に日本にペットとしてつれてこられたのがジュウシマツらしい。ペットは敵から逃げたりご飯の心配をする必要がないので、余ったエネルギーを歌に使うことができて、世代を経るごとにだんだんと野生種より上手な歌を歌えるように進化したらしい。野生の種でも、敵がいなくて食べ物が多い場所ではより工夫を凝らした歌やダンスが見られるらしい。ゴクラクチョウという鳥の仲間が例としてあげてあった。そういえばそんな名前の、やたら見た目が派手で踊りが変な鳥が近い種同士で固まっていたのをはじめの展示で見た気がする。

○ ヒトの言葉はどうして進化したの?

2つの大きな画面がある。言葉の起源には2つの仮説があるらしく、それぞれの画面にそれにまつわる映像が流されている。

「歌から進化した」大きな画面にいろんな国、いろんな時代の人が歌って踊っている映像が流れている。歌や踊りは、ただ生きるためなら役に立たない無駄なものだけれど、どの地域でも、貧しくても裕福でも皆が楽しんでいる。音楽が人の生活にここまで深く根付いているのは、もともと歌が求愛やコミュニケーションの手段だったから。

「ジェスチャーから進化した」いろんな映画やドラマの1シーンが流れている。全員しゃべりながら体を動かしている。解説のパネルには「電話越しで会話しているのに、おじぎしてしまうことはありませんか?」「友達としゃべっていて、特に意味のない身振り手振りを加えてしまいませんか?」という問いかけ。人は話していると無意識に体が動いてしまう。声を出さずに、ジェスチャーでコミュニケーションをとるときも、言葉に関する脳の部位が働いている。

というような内容の展示と解説。どちらもありそうで、どちらが正しいのか、わからない。言葉の進化については今も議論が交わされているらしい。

○ 鳥とヒトをくらべてわかること

出口に向かう通路に、鳥の研究の意義や役割が書いてある。「研究対象としての利点」「進化の考察のヒント」「医療への貢献」など。印象に残ったのは、医療への貢献。鳥の脳のことがわかると人の脳の仕組みの解明のヒントになる可能性があり、言語障害の治療法確立を助けるかもしれないとのこと。人の病気の解明にも役立つというのがとても意外に感じたし、必要な研究なのだなと思った。

○ 大きいパネル「ヒトの言葉はどうして生まれて、どのように進化したと思いますか?」

出口に真っ白な大きいパネルと「ヒトの言葉はどうして生まれて、どのように進化したと思いますか?」という問いかけがある。付箋とペンがおいてあって、見に来た人が付箋に自分の意見を書いて貼れるようになっている。私は音楽を楽しめるのが言葉のおかげ、というのがとても印象的で、嬉しかったので「音楽を楽しむために進化した」と書いた。

(生命科学院生命システム科学コース 修士1年 太田菜央)