2012年度後期学生参加プロジェクト「常設展アンモナイトコーナーの展示制作」 参加学生による考察レポート

ミュージアムマイスターコースの一環である「常設展アンモナイトコーナーの展示制作」に参加した10名の学生の総括レポートをご紹介します。

 

 

  この展示は、アンモナイトの意志(遺志)により為された展示ではない。すなわち、観覧の主対象物であるアンモナイトには、主体がない。では、主体はどこにあるかというと、「モノ」の展示に「コト」だけではなく、展示を制作する意志、あるいは意味を付随させる「ヒト」にある。つまり、我々だ。観覧者もまた、展示から様々な「コト」を掘り起こす。

  我々が「北海道はアンモナイトの世界的産地」であるというテーマを多くの方々に理解していただくために解説を行う一方で、観覧者の方々は、「昔は近所に大きなアンモナイト化石が転がっていて、それを漬物石にしていた」、「武四郎の資料展示が、ちょうど近代美術館で行われている」(現在は終了)、「ノジュールとは、元々は何語なのか」等々、各々が過ごされる日常を、この展示に紐付けてお話しご質問下さった。「話し上手は聴き上手」という言葉もあるが、今後は、「展示解説」や「アンケート」というシステムに加え、「観覧者の感想を直に聴く」ことに特化したシステムを配備する必要がある。

(文学研究科修士1年 新井藤子)

  私はこの企画の立案と制作期間中の進行役を務めた。反省点は主に制作の進め方に関するものだ。1つは制作期間全体の時間配分について。我々は展示の見せ方に関する議論に多くの時間を費やし、結果として展示内容の吟味や調査に割り当てる時間が十分でなかったように思える。また、展示を組み立てる時間にも余裕がなかった。長期的な視点で余裕をもった計画を立てることが今後の課題だ。2つめは作業の割り当てについてだ。今回は10名が参加したが、担当する作業量に偏りが出てしまった。各々展示制作に割ける時間やできる作業が異なるため仕方のない面もあるが、改善の余地はあると考える。一方、パネルデザインや標本ディスプレイなど展示の見せ方は工夫を凝らし満足のいくものが仕上がった。本企画を通し多くことを学ぶことができた。得難い機会を与えてくださった小林先生、湯浅先生、総合博物館、関係各者、そして共に実習に励んだ参加者に心から感謝申し上げる。

(理学部3年 安藤匠平)

  あっという間の5か月であった。収蔵庫で数多くのアンモナイトに触れて調査し、推薦するアンモナイトについてのレポートを書き、意見を持ち寄って展示資料を選定した。展示方法についても討議を重ねた。当展示に繫がる一言ラベルを館内の他のアンモナイト展示に添付し、ポスターやチラシ制作や配布などの広報活動も体験した。展示開始日には展示解説をとおして利用者の反応を知ることができた。

  アンモナイトの展示ケースを覗きこむ利用者は多数確認でき、解説に対してのコメントも少なくなかったが、大パネルの文字情報をじっくり読む様子はあまり認められなかった。これは本展示が当館の観覧順路の最終地点に位置するので、利用者が疲労しているためとも考えられる。

  短い解説文を資料の脇に設置することや解説シートの可能性について再考し、改善を加えて、解説員がいない通常の展示環境でも展示目的を伝えていけるようにすることが今後の課題であろう。

(文学研究科修士1年 大内須美子)

  今回のプロジェクトの反省点は日程調整が甘かったことだ。特定のメンバーの作業量が多くなってしまったこと、良いものをつくろうとするあまりに限り有る時間をギリギリまで使ってしまったことにより、余裕を持って進行することができなかった。しかしながら時間をかけた甲斐があって、各メンバーのアイディアが結実した展示は満足できるものに仕上がった。斜台とパネル、ポップを組み合わせた展示は、アインシュタインドームの雰囲気に調和しつつも存在感がある。標本の質も然ることながら、斜台を採用することによって標本や資料を見やすくかつ格好良く配置できた。

  反省点も多いが、グループ内外のたくさんの人と協力して物事を成し遂げることの難しさと楽しさを再確認することができたことが、私にとっての最大の収穫だ。今後もこういったプロジェクトに積極的に参加し、今回以上に素晴らしいものを作っていきたい。

(理学部2年 太田晶)

  私がこの展示制作で学んだことは、制作の難しさだった。この展示制作を行うに当たって最初に行ったのはアンモナイトについて学ぶことで、ある程度知識がついたら展示するアンモナイトを選んでいった。この時にも、どれを選ぶのかを、来館者がどのような視点で見るのかを考えて選ぶことができたのではないだろうか。しかし、そのポイントは人によって考え方が異なるため様々な視点を学ぶことができた。

  次に、実際の制作現場では、自分で考えていたものと実際に制作できるものとの壁が大きい事を知った。やりたかった事に近づけるには、かなりの時間がかかってしまったり、やること自体は多くなくても難しかったりしたため苦労することが多かった。最終的にはかなり良いものを作り上げることができたのだが、かなりの時間がかかり完成が開場の間際になってしまった。次に制作する機会があったのならもっと余裕を持って完成を迎えられるように、スケジュールをよく考える必要があるだろう。

(理学部3年 木野瑞萌)

  私が展示製作に関わって感じたことは、第一に、展示制作には強力なリーダーが必要であるということだ。今回のプロジェクトでは、多忙ながらもやる気のある人々が多く、自らアイディアを出すことも多かったが、何より一番の貢献者はリーダーの安藤さんであろう。彼は自ら事前に展示デザインの作成などを手がけ、メンバーに制作の指針を示した。メンバーへの気遣いのおかげで、積極的な意見交換も促されたが、メンバーへの作業の分担を増やしても良い気がした。第二に、意見交換の時間の確保が重要であることだ。期末考査や帰省の時期と重なり、なかなか全員集まって話す機会がなかった。メーリングリストを用いた意見交換は、人によっては意見を出しづらかったり、返信が遅れることもあり課題は多い。都合が合わせづらく仕方がなかったとはいえ、顔を合わせて話す機会を増やせれば良かったであろう。

(水産学部2年 小塚陽介)

  僕は、まだ1年生であったので、まだまだ勉強不足であったが、その分、得るものも大きかった。参加者の中には、3年生、4年生、中には、修士の学生もいて、少し肩身が狭かった。しかし、その中で、参加した時間は少なかったが、確実に経験を得たことを実感している。では、一体どのような経験を得ることができたのか。一つは、展示制作を通して得たさまざまなノウハウである。展示物の制作方法だけでなく、どのように他の資料館に許可を取っていくのか、文献を調べていくのか。展示についてなにも知らなかったが、そんな初めての作業を通していくつかのノウハウが身に付いたのではないだろうか。また、さまざまな課題にぶつかった時、どうすればよいのか、そんなことを考えるきっかけになったと思う。そして、アンモナイトについて知ることができたことも良かった。アンモナイトの知識を深めていく内に、アンモナイトは海洋生物なのだと感じ取れたことが、水産学部生として嬉しく思う。

(水産学部2年 中嶋実)

  アンモナイトは好きであったが、詳しくはなかったため、このような私でも常設展示を制作できるか大変不安であった。しかし、メンバーの中にはアンモナイト収集が好きな学生はもちろん、文系の学生もいておもしろい議論が多少できたように思う。特に松浦武四郎の南瓜石の記述に関する展示を制作する際の文献調査の過程は、あまり携わらなかったもののとても新鮮に感じた。その他デザインに関する議論や展示の作り方に関することなど、非常に勉強になったと感じている。期限ぎりぎりまで展示物が仕上がっておらず間に合うかどうかとても不安になったが、無事に間に合って非常に安心している。博物館まつりには参加できなかったため、あとで展示を見に行ったが、予想以上によい出来であったので、とてもうれしくなった。展示を見る目が多少は変わったように感じる。今後もこの経験を生かして博物館・展覧会について学んでいきたい。

(理学部4年 中島悠貴)

  今回の展示制作では「目的と方法の適切さ」が問われる機会が多かったように思う。展示制作においてすべきことは膨大であり、専門知識の乏しい10人の学生が本業の片手間に行うには、半年という期間はあまりにも短い。誰が見ても非の打ちどころのない展示を制作するのは不可能であり、工程全てを全力でやる必要はない。もちろん、手抜きをしても良いという意味ではない。目標の設定は順序立てて段階的にすべきなのだ。時間と労力はそれぞれの作業において「必須作業か、単なるこだわりか」を意識して設定し、その目標達成に満足できなければ、他の必須作業が済んだ後に、余裕があればまた取りかかればよい。ひとつの洗練されたコラムができても全体がなければ公開価値のない未完成品だ。視野は広く持たなくてはいけない。教員・学生が「社会体験型科目としての展示制作」の目的と方法の意味を考え、共有できていたとしたら、この展示制作はひとまず成功したと言えるであろう。

(農学部3年 長谷部葉子)

  今回は博物館の展示がどのようにできるかを学ぼうと思い参加した。完成までの過程で難しかったのはどのような文章で北海道とアンモナイトついて解説するかということだ。どうしたらわかりやすい表現、誤解のない表現になるのかを皆で考えたが、考えれば考えるほど難しかった。また考えた表現を全体のデザインやスタイルを合わせる時に使えなくなることもあり、当初考えていた以上に展示制作は難しかった。

  また来館者の方にこの展示の解説をして、大きく感じたことが2点あった。一つ目は、来館者の方が興味を持って下さる部分と展示内容に差異があったことである。蝦夷層群の形成過程について注目される方が多い一方で、その解説がパネル内に不十分であった。もう一点は目線である。企画段階では見やすいと思ったデザインが実際、目線のより高く見えにくいことがあった。このように多くのことを学べたこの展示制作は私にとってとても有意義なものになった。

(農学部3年 矢部敦子)