【函館キャンパス】展示準備・解説を担当した学生による最終考察レポート

函館キャンパスの水産科学館で、「学船」展の準備と展示解説に取り組んだ3名の学生の、最終考察レポートをご紹介します。

今回、ミュージアムマイスターコースの学生参加プロジェクトに参加して、初めて展示の準備と解説の活動に取り組んだ。取り組んだ時間は、圧倒的に準備の方が多かった。解説していた時間には来場者数が多くなかったため、解説の実践を通して得られたものの量はあまり多くなく、得た経験によってそれぞれの取り組みを単純に比較することは難しい。解説対応時の来館者数の少なさという点は、単純に、広報が足りなかったのかとも思う一方、やはり北水祭(北大水産学部の学校祭)を通して考えてみると、仕方ないかと思う面もある。全般的には、展覧会には地域の方や水産学部のOBOGの方々が来場して下さったとは聞いたが、やはり学生の来場が少なく感じた。それは、水産科学館が開館している時間帯にも起因していると思う。函館キャンパスの学生は、3年生であれば午後は基本的に実験があり、カリキュラム通りの時間に終わったとしても科学館が閉館してしまう時刻になる。4年生は基本的に卒業研究などの実験などで忙しいということは、先輩の話を聞いて事実であるようだ。やはり土日に開館して、そこで展示解説をもう少し多い頻度でやっていれば、もっと多くの収穫があったかもしれない。また、地域の方などは午前中に多く来場していたそうだ。この点からも、展示解説を実施した時間帯については、改善の余地はあるのではないかと思う。
展示の準備段階で得たものを考察すると、今回の展示において如何にして来館者の違和感をなくすかということに留意したことが挙げられる。細心の注意を払って、この流れであるから次はこの展示物を配置しよう、などと言った工夫に今回ある程度携われたが、その工夫は突き詰めてしまえばそこに工夫がなくても、展示としては成り立つようなものであるかもしれない。しかし、そこに工夫があれば、来館者が何もマイナスなことを感じずに、展示に集中できるようになり得るのである。たとえば何かを学ぶ際に、その学問の歴史や基礎から入ることはよくあることである。数学を学ぶ際にいきなり、微分積分はしない。今回の展示や、博物館展示などにおいて、そこまで極端な例はないとは思うが、順路のような流れを考慮する必要性がある。その点で今回特に印象に残ったのが、水産科学館に入って企画展示会場に向かう階段の写真パネルの配置である。プロジェクトに参加している学生メンバーの左近さんが、写真パネルに一定の物語性を持たせることを提案し、自分自身もその物語性に関して真剣に考えた。写真パネルは、特に説明をつけず、ビジュアルで訴えて空間を演出することを意図しており、ただ羅列するように展示しても来館者がただの展示として受け入れることは可能であることが予測された。しかし、来場者が階段を上って企画展示会場に入る際に見る時と、階段を下りて企画展示会場から帰る際に見る時とでは、同じパネルを見ても受け止め方に違いがあるであろうと想定して展示を工夫した。パネルに物語性を持たせた展示を心がけたのである。来場した時と、会場を去る時のパネルの印象の違いに気が付いたかは、聞き取り調査などを実施しなかったのでわからない。わからないという点も含めて、展示する側と、展示を見に来る側が、展示を通して正確にコミュニケーションがとれるかは不透明である。不透明であるがゆえに、展示する側は、できる限り様々な来館者の視点に立ち展示を工夫する必要がある。
今回の企画展示に関連した発行された書籍を見たところ、展示に用いた写真が多く掲載されていて(もちろん関連書籍であれば当然であるが)、その写真と書籍本文の内容をリンクさせたり、写真を多少加工していわゆる一枚絵のようにビジュアル的に使うなど、写真の使い方が非常に効果的で印象に残る本の構成であった。さらに写真のみならず水産学部のロゴを連想させる色使いがアーティスティックで見事だと思った。このような視覚的な印象を与えられる魅せる展示を制作することは重要であるが、限られた条件のなかで実現するのはなかなか難しかった。その中で写真パネル展示の物語性を持たせることを考えて取り組めたのは、より良い展示を制作するための実践としてよかったと思う。
(水産学部3年 伊藤慧)

初めて博物館の展示作業に関わり、開催期間中も問題点を見つけては改善策を協力して考案したが、その中で意外だった点がある。それは、来館者の視線を予測するのが想像以上に難しいということだ。 今回の展示で起こった一例を挙げる。「学船」展は、水産科学館の2階展示室にて行われていた。1階の階段脇には、挨拶の書かれたパネルが置かれ、その傍には大きな「学船」展のポスターが貼られていた。しかし、1度目の展示解説期間中、あいにく来館者が少なかったため3人いた解説員のうち1人が1階で待機していたところ、「2階で『学船』展を行っているのに気付かなかった」来館者がいらして、1階の別の展示を観て帰ろうとされていた。その際は、解説員が話しかけたことがきっかけで2階も観ていただくことができたが、それまでの来館者の中にも、同じように気付かなかった人がいた可能性はある。それを考慮して、今度は階段上の梁の出っ張りに矢印と「学船」展開催中であることを示した紙を貼った。それでも、同じことが起こっていた。展示を制作した側が期待するところに、来館者の目は向いていなかった。
今回のことを踏まえ、期待する環境で展示を観ていただくためには、柔軟な改善を細かく加えていくことが必要だと考えた。実際に来館者の動きを見て初めて気付くことがある。今回は2度の展示解説の際にしか気付くことができなかったため、改善し切れないところがあった。次回以降の機会があれば、より来館者の視線に気を配った設置を考えたい。
もう一つ、学生解説員に求められていることを、少ない経験ながら考察する。難しい言葉の並べられたパネルの内容について、分かりやすく解説していくことを、解説員は求められると予想していたが、今回の実態はそうではなかった。「この(映像の)イカはなんという種類なのか。」私が唯一来館者の方から聞かれた質問である。他にも、興味を持って聞いていただけたのは、自分がおしょろ丸へ乗った時の体験談など、学生の視点から見た展示物の実際の話であったように思う。学生が解説を行うことの意味はここにあるのではないだろうか。今回の展示において解説員に、とりわけおしょろ丸に乗った経験のあるものに求められていたのは、展示物の営為を感じさせる実体験的な説明だったのかもしれない。
(水産学部3年 佐近慈)

私は水産科学館にて企画展の準備とオープニングセレモニーの司会、展示解説を行った。 今回の企画展は館の二階を利用したが、企画展が二階で行われているということが伝わりにくく、企画展を観に来た来館者が常設展示に行ってしまうケースがあった。 また、企画展を行うに当たり、会場となる部屋に元々あった展示物を別館に移し、企画展の間は別館を閉鎖し倉庫にしていたが、来館者の中には別館の常設展示を楽しみにしていた方も数人ほど見られた。どこにどのような展示があるかが一目でわかるマップを入り口に用意するのが望ましかっただろう。 展示の目玉の一つが映像展示ということであったため、映像内容を示す紙のプログラムも用意したが、実際にプログラムを手に取る人は少なかったようである。 小さなパネルをテレビ横に置いておく等、別の手段を取ることを検討すべきであったかもしれない。
展示解説については、来館者があまり来ない時間帯に展示解説を行ったため、十分に解説ができなかった。 来館者の多い時間帯を選ぶべきであったと反省している。
企画展のオープニングセレモニーでは司会を務めた。 セレモニーには水産学部や博物館の関係者だけでなく、記者の方々も訪れ、後々新聞などに掲載された。
また、今回の企画展に伴い発行されたおしょろ丸の書籍について、おしょろ丸の歴史の章について執筆に協力した。執筆に用いた資料は歴代おしょろ丸や水産学部の記念誌などが主体で、おしょろ丸の歴史を包括的に纏めてある資料は無く、いくつもの資料から情報を繋ぎ合わせなければならなかったが、今後はこの出版物が新たな包括的資料となるだろう。
企画展を行うにあたり、常設の展示物を移動させたり企画展の展示物を配置したりといった事前準備にも従事したが、展示物のなかには壊れやすいにも関わらず補強や対策が十分とはいえないものも多くあり。 また展示物では無い収蔵品を常設展示室の展示台内部に収納しているなど、展示物の長期的な保存の面で不安な要素や収蔵品保存スペースの不足が顕在化した。
(水産学部4年 中原隆史)