【セミナー報告】「記憶の中の科学館〜50年前から紡がれる科学館体験〜」

タイトル:「記憶の中の科学館〜50年前から紡がれる科学館体験〜」

講師:湯浅 万紀子(北海道大学総合博物館 准教授)

日時:2016年3月19日(土)

会場:北海道大学 人文・社会科学総合教育研究棟1F W103教室

講演内容:

湯浅万紀子先生により、「記憶の中の科学館―50年前から紡がれる科学館体験―」というテーマでご講演いただきました。今年度で最後となる本セミナーに は、市民の方々や博物館ボランティア、北大の理学部や水産学部の学生、東北や関西の大学生など69名もの方が参加されました。

湯浅先生は、博物館の来館者やボランティア、スタッフなど博物館に関与する人々の博物館体験の長期記憶に注目し、彼らがどのような体験をしているのか、彼 らは時を経てその体験をどのように意味づけているか、という視点から調査を実施し、それにより、博物館のもつ大事な意味を明らかにしたいと、研究に取り組 まれてきました。先生の研究では、博物館の学習を広く「体験」として捉えています。そして、その体験を、来館中だけでなく、博物館を訪れようと思ったとき から、来館して、さらに来館後数日、数ヶ月、数年を経て思い出されるまでを包含して考えています。

セミナーでは、参加された方々にも印象的な博物館の思い出を話していただきながら、進められました。講演ではまず、常設機関であり、特別な空間があり、専 門知識をもったスタッフやボランティア、来館者同士の交流もあり得るという博物館の特徴を解説された後、博物館体験の長期記憶研究の意義、認知心理学者と の共同研究の枠組み、これまで実施されてきた科学館での調査研究の紹介、の3段階を追って話していただきました。質問紙調査、参与観察、面接調査、関係者 へのヒアリング、文献調査といった多様な手法で調査が展開され、量的分析と質的分析がなされてます。面接調査での語りの真正性についても解説していただき ました。

科学技術館と名古屋市科学館、明石市立天文科学館で実施された調査で語られた思い出のなかでは、スタッフとのコミュニケーション、親子の思い出、ショップ 等の博物館の物理的な環境が記憶に残っているといった回答が印象的でした。また、勉強というより遊びの場であったと語る方もいらっしゃいました。子どもの 時や家族との思い出などから、博物館は忘れずにずっと頭の中にあった、大人になってから博物館への思いを次の世代に伝えていきたいと考える方も多くいるこ とを知りました。湯浅先生は、博物館との思い出を再燃させた来館者にとっても、来館した次世代の子供達にとっても、記憶に残る、そして新しい未来を共に 創っていく科学館であってほしいと語られました。

質問の時間には、郷土資料館も博物館の1つなのかという質問が寄せられました。この質問に対して湯浅先生は、郷土資料館も博物館と呼ぶことができ、博物館 法を紹介されたり、「ミュージアム」の概念は広いことを説明されました。友の会などの組織がない博物館ではどのような調査が可能かとの質問に対しては、会 員に限定せずに、まず広く思い出を募集する取り組みもできるのではないかとお答えになりました。湯浅先生が今まで研究・調査をすすめていく上で感じた喜び は何かという質問に対しては、さまざまに博物館体験を意味付ける方のお話を伺い、博物館のもつ力を再認識したり、北大総合博物館では多くの方々と共に博物 館活動を展開できることが嬉しい、とお話しになりました。そして、この夏にリニューアルオープンする北大総合博物館でも多くの方と未来を創っていきたいと 語られました。

今回のセミナーで博物館学のひとつの研究にふれ、リニューアル後の北海道大学総合博物館にも関心をもった方も多かったと思います。このようなセミナーを通して博物館への目の向け方や感じ方を広げ、それぞれの記憶に残る博物館を意識するようになるのではと思いました。

(総合教育部1年 時永万音)

 

  

来場者にチラシを手渡す時永さん        司会の様子                            講演後の記念撮影