2022夏季企画展示「感じる数学」展示解説担当学生の最終考察レポート

ミュージアムマイスター認定コースの一環として、2022年度夏季企画展示「感じる数学 Tangible Math ~ガリレイからポアンカレまで~」では7名の学生が、本学の数学科の先生方・大学院生・学部生や「数学みえる化プロジェクト」の先生方とともに展示解説に取り組みました。
事前に担当教員から展示内容と展示解説について説明を受け、会期中、前述したさまざまな方と共に解説に臨みました。展示室での対応や質疑応答の内容は担当教員でチェックし、全員で共有しました。毎回、解説終了後にはミニレポートを提出して担当教員からのフィードバックを受けました。互いの対応や課題、思いを話し合う中間報告会・最終報告会を開催する中で、展示解説についての個々の意識や臨機応変な取り組み方を共有することができました。
以下、5名の北大生の最終考察レポートをご紹介します。

 

私が今回の展示解説体験を通して最も強く感じたことは、来館者の方それぞれが博物館に求める体験が異なるということである。最初の頃は用意していた1パターンの解説をするので精一杯だったが、飽きられてしまう、難しくて理解してもらえないなど上手くいかないことが多々あった。しかし、解説の回数を重ね、先生からのアドバイスや報告会で他の学生の方のお話を聞く中で、少しずつ解説の方法を工夫することができた。例えば、子供たちには実際に手を動かして遊んでもらうこと、伝えることを絞って短くまとめることを意識することによって、楽しみながら何か一つでも記憶に残るようにするなどである。また、数学の公式や理論がどういうことかを解説するだけでなく、なぜそれらが考えられたのか、実際にどのように用いられているのかということを説明し理解してもらうという、私が学芸員を目指すにあたっての目標も、少しではあるが、実現することができた。私は今回の展示解説体験で対話力や臨機応変な対応力も身につけることができたと感じている。

木元 友理香(工学部 環境社会工学科 資源循環システムコース 3年)

 

今回のプロジェクトが自分にとって特別なものとなった理由は、展示テーマが数学であったからに尽きると思う。もともと博物館が好きで自然科学の展示を主とした博物館もいくつか訪れたことがあるが、標本など目で見てわかりやすく展示できる生物分野や具体的な実験を示すことのできる物理・化学分野と違い抽象的になりがちな数学分野についてわかりやすく解説しているものは少ないという印象を受けていたため、企画に関わる前からどのような展示になるのか楽しみだった。実際の展示は順路に沿って数学の発展のおおまかな歴史を追いながら実際に実験を行って内容を感覚的にも理解するという構成で、一来館者としてとても興味深く、また解説員としても数学的な厳密さと思い通りにならないこともある実験の面白さとを両立させて伝えるという課題について考えさせられるものだった。計6日間の解説を通して多くの来館者の方と交流し、数学に対する価値観を共有できたのも自分にとって意義のある体験だった。

佐藤 英(総合教育部 1年)

 

昨年に引き続き、2年連続で展示解説を行った。といっても、昨年のオーソドックスな展示とは打って変わって、今回は体験型の展示である。展示解説を終えてから考えたことも、昨年とは全く異なるものになった。本展の特徴として、来館者の展示に対する興味がとても強かった。ただ、その興味が展示を通した体験に繋がっているかというと、そうではない場合もある。行動に移すのは恥ずかしいのか、体験型展示を触ってみたいけれど躊躇っているという雰囲気の人が多く見られた。そのため、展示解説では、積極的に体験を交えた解説を行うことを意識した。来館者の方に体験をしてもらいつつ、体験から生まれる問いを一緒に考えていく。そして、その問いが私たちの生活にどう貢献したのかを述べて、数学の面白さや奥深さを知ってもらう。展示の導入部分でこの展示解説ができると、それ以降の展示は、展示解説員がいなくとも手を動かしてくれることが多かった。この経験から考えると、体験型展示において展示解説員に求められているのは、展示を一緒に楽しむことなのではないだろうか。はじめから全てを説明するのではなく、展示から考えてもらえるように誘導していく。「展示を見て考えてみる」というのは、博物館の本質的な楽しみ方だと思う。展示を見て「そうなんだ」で終わらない、よりよい博物館のかたちが、「感じる数学」展にはあった。

高橋 佑希(文学部 人文科学科 文化人類学研究室 4年)

 

 

今回の「感じる数学」展のマイスターコースを通して、様々なことを学んだ。まず、市民の方々から子供まで広く展示を楽しむための手助けを私たち解説員が担っていると感じた。解説員は一方的に説明するのではなく、来館者の疑問や感じたことを聞く役割でもある。私が担当した初めの頃は、自分が一生懸命覚えた解説をするのに精一杯であり、それほど来館者の反応などを見る余裕がなかった。しかし、回数を重ねていくうちに解説は自然とできるようになり、来館者の反応を見る余裕が生まれた。初めは1パターンしかなかった解説であったが、慣れていくうちに、展示を見に来た人の様子や年代によって解説の長さや言葉遣いを変えることができるようになり、自分の成長を感じた。自分の解説で、展示を理解、納得してくれる人がいることで、解説員の必要性も実感した。初対面の来館者とコミュニケーションをとった経験を生かし、これからも様々な人と関わっていきたいと思う。このような貴重な機会を設けてくださった方々に深く感謝したい。

松平 玲奈(法学部2年)

 

9月6日、自分が展示解説を担当した最後の日である。もうすぐ担当の時間が終わってしまう寂しさを感じていた昼時、白髪の男性が展示室にいらっしゃった。サイクロイド振り子やゴルトンボードなど、ほとんどすべての展示物を写真や動画に収め、真剣な眼差しでじっくりと鑑賞されていた。お話を伺うと、道内で芸術活動をされている方だという。以前から数学の美しさを自身の創作に生かしたいと考えており、数学を学ぶとともに創作のインスピレーションを受けるため、遠路はるばる来館されたとのことだった。熱心に質問していただいて回答に窮することもあったが、お年を召しても学習への意欲を持ち続ける男性との対話は、大変刺激的で、解説員である自分も学ぶことが多かった。同時にこれは、生涯学習を支える施設としての博物館の意義を強く感じる体験であった。利用者の自主的な学習意欲を尊重し、さらに深い学びへ橋渡しをすることは、博物館の重要な役割なのである。そして男性の学びたいという意思に応えるお手伝いが少しでもできていたのなら、展示解説員としてこれほど嬉しいことはないと感じた。穏やかに「ありがとうございました」と言い残して展示室を後にする男性の姿は、1ヶ月ほどたった今も忘れられない。

幸 一尋 (文学部 人文科学科 3年)