2021夏季企画展示「藻類の時間軸」展示解説担当学生の最終考察レポート

ミュージアムマイスター認定コースの一環として、2021年度夏季企画展示「藻類の時間軸−私たちの始まりへ−」の展示解説に取り組んだ7名の北大生の最終考察レポートをご紹介します。
7名は事前に担当教員から展示内容と展示解説について説明を受け、会期中、6回の解説に臨みました。展示室での対応や質疑応答の内容は担当教員がチェックし、全員で共有しました。毎回、解説終了後にはミニレポートを提出して教員からのフィードバックを受けました。複数名で対応する機会を多く設けたり、互いの対応や課題、思いを共有する中間報告会・最終報告会を開催したことから、7名が相互に刺激を受けた様子が窺えます。
ご来場下さったさまざまなバックグラウンドをもつ来館者と対話を続けた7名の夏を、追体験していただければと思います。

展示解説最終日、展示解説員の研究をしている大学院生の森本さんから「今回のプロジェクトに参加した目的は達成できましたか?」と質問をされた。その時私は即答をすることができなかった。なぜなら、まだ私の目的が達成されたかどうかを立証できていなかったからである。
今年5月に自分の撮影した写真を紹介する個展を開こうと決めた。その時に『企画展 藻類の時間軸』展示解説員募集のポスターを見つけた。初めて個展を開催すると決め、会場を確保したは良いものの何から手を付ければ良いのか全く分からず、展示という営みに少しでも関わることで個展開催へ何かしらの手がかりが掴めれば良いなと思い応募した。専攻が化学ということもあって藻類の知識はほとんど無く、初日は不安でいっぱいだった。しかし、回を重ねていくうちに来場者の方と解説を通じて藻類の奥深さ、面白さを共感し合うことができるようになった。展示解説員は来場者の方に展示作品に関する+αな情報を与える役目と共に作品をより印象深いものとして捉えて帰ってもらうという使命があると考えた。
9月20日、私の個展も無事終えることができた。来場していただいた方に自分の写真に込められた背景や思いを口頭で伝えた時や感想を求めた時、本当に解説員の経験をしておいて良かったと思った。見ていただいた方にどんな風に話しかけるのか、情報を伝えるのかを自然に考え、実践することができた。参加した目的であった「個展開催へ何かしらの手がかりを掴む」は達成されたと今、胸を張って言える。
柿澤彩花(工学部 応用化学コース2年)

 

「藻類の時間軸」という展示で特徴的だったのは、藻類の生命史と分類学が交差しているところ、そしてアート作品との関わり方について考える必要があったというところだと思う。藻類の生命史や、北大の藻類学者たちの学術的営み、そして多くの来館者には馴染みのない分類学についての見識が要所要所で絡み合っている印象を受けた。多面的な説明ができる一方で、話題が複数絡み合っていることで口頭での説明がどうしても長く、複雑になってしまうという問題が考えられた。このような説明は聞き手に対し、一方的な知識の披露のようになってしまい、聞き手を置き去りにする危険にとどまらず、一般的な解説者に対する印象が悪くなってしまう恐れがあった。そのため、噛み砕いた説明を行うことはもちろん、聞き手を置いていくことがないように解説員である私が「伝えたい」と思ったトピックに限定した説明をすることを心がけた。他にも、来館者との会話や来館者自身の所感を引き出すことを意識しながら解説に努めた。
アート作品との関わり方について考えることは、普段現代芸術を専攻している私にとって重要な問題であった。今回展示された作品はインスタレーションという比較的歴史の浅い表現方法であった。空間ごと作品世界に自身を埋没させることができるという面がある。他方、インスタレーションの作品は歴史的な芸術作品とは違い、一見すると何をテーマとして作られている作品なのか分かりにくい、という課題もある。鑑賞者が「なんだかよくわからない空間に案内された」ではなく、中の作品が何で構成されていて、どうこの展示に関連しているのかを伝えることは、円滑な作品解釈だけでなく、一見よくわからないものを理解しようとする橋渡しとして不可欠な説明であったと考えている。
上村麻里恵(文学部 芸術学研究室4年)

 

    

私は展示解説のプロジェクトへの参加が初めてであり、初回は分からないことだらけだった。しかし、それだけに今回のプロジェクトを通して、博物館や展示解説というものについての印象が大きく変化したように思う。
初回の解説の前は、展示内容や展示解説について事前の説明を受けていたものの、展示の分野の予備知識を全く持っていなかったため、事前学習に力を入れて解説に臨んだのだが、実際に来館者の方と接してみる自身では考えもしなかったような質問も多く、答えに窮することがほとんどだった。また、初めのうちは、こちらから一方的に解説してしまっていたのだが、他の解説員の方が来館者の方と相互にコミュニケーションを取りながら解説を行っている姿を見て、衝撃を受けた。
「博物館」「展示解説」という言葉のイメージから、来館者は所謂「博物館に来そうな人」、解説員は「情報を与える」役割という固定観念を持ってしまっていたのである。だが、実際の博物館の来館者のプロフィールや展示の見方は多種多様であり、それに対応して解説の在り方もまた変わっていく。そのことに気づかされたことで、来館者の方との会話を楽しむ余裕が生まれたり、また、感想なども多くいただけるようになり、自身の達成感にもつながった。一方でどのように解説すれば、よりその方に興味を持っていただけるのかなど新たな問題意識も生まれた。
今回のプロジェクトを通じて、展示室というのはその日の来館者、さらには曜日や天気によっても様々に変化する「生きた空間」だということを強く感じた。展示解説を行っていく中で、そのことがとても難しくもあったが、博物館というものの面白さでもあると感じ、より興味が深まった。
木下日菜子(文学部 総合教育部1年)

 

私は藻類を含む海洋生物に興味があり、大学で学んでいる。コロナ禍でフィールド実習が相次いで中止となり、藻類の貴重な標本を自分の目で見る機会を求めていたと同時に、展示解説員として来館者と一緒に学んだり、考えたりする機会が得られると考え、今回のプロジェクトに参加した。
私にとって博物館での展示解説は初めての経験で、自分の解説が相手に理解してもらえるかどうかや、自分との対話が来館者にとって心地よいものなのかについて自信が持てなかった。しかし、一歩踏み出して話しかけてみると、多くの方が私の説明に驚いたり、共感したりするなど様々な反応を示してくださることを実感させられた。一緒に藻類について考えられることに喜びを感じ、展示をより楽しんでもらうための効果的な方法を追求していった。実践した一例として、私が来館したばかりの人に藻類標本の注目すべきポイントなどの観覧のヒントを与えると、展示に興味を持ち、じっくりと見て、感想や疑問点をお話してくださったことはとても嬉しかった。藻類をテーマに小さな子どもから大人まで、様々なバックグラウンドを持つ人たちと交流できたことはとても楽しく、良い経験になった。
佐々木健太(水産学部 海洋生物科学科2年)

 

展示解説体験について、 私は事前説明から実際に展示解説に入るまでの期間が長く、中間報告会の見学などで事前に触れる情報が多かった。そのため解説に入る前までは、 展示の内容の把握や質問シートの正確な記入など、解説員としての義務や業務をしっかりと遂行できるかが最も大きな懸念 であった。しかし、実際に解説を体験してみると、 解説員として動く中では、 このような義務や業務の占める割合はほんの一部に過ぎないということを知った。 私の意識の大部分は、「来館者の方といかにして接するか」にとられていた。 これは、その解説する内容の充実度というよりも、 来館者ひとりひとりに対してどのような内容を、どのような形で提供していくべきであるかというような、その内容の選択や解説の手法に関するものが大半であったように思う 。
うまくいくと、解説しているうちから 来館者の方の展示やそれに関連 した 事柄 に対する興味・関心の高まりを 、その雰囲気や態度ではっきりと感じられることがある。今回の企画展の内容に何かしらの形で惹かれて来館された方はもちろん、 企画展に対して特に 期待や学びの意欲を持たないような空白の状態で来館された方についても、解説を通して その意識のどこかに「思っていたより興味深かった」「帰ったらこの話を誰かにしてみよう」というような新たな感情・意欲 が生まれている。これは、来館者の方が展示解説を通して得た一種の「博物館体験」 であり、その中に自身が関与できたことがとても新鮮で嬉しく感じる 。これとともに、このような来館者の方の博物館体験に携わること自体が、自身の 解説員としての「博物館体験」の 構築に大きく関わったことを考えると、博物館という場の提供するインフォーマルな学びの相互性を深く実感せざるを得ない。また、このような来館者の方や他の解説員との交流を通して得た解説員としての毎回の博物館体験により、来館者や解説、博物館 への認識や見方がその都度様々な方面で揺れ動き、それらが積み重な って微細ながら本質的な認識の変化につながっていくことこそが、この博物館展示解説体験の醍醐味であったように感じる。
佐藤芙由(理学部 生物科学科2年)

 

6日間に及ぶ展示解説を終えて、北大総合博物館の企画展ならではだと考えることが1つある。それは、企画展よりも常設展の観覧を主目的として訪れている人が多いということだ。一般的な博物館において、目玉とされるのは企画展であることが多い一方、北大総合博物館では、充実した常設展を見に訪れる人が多いように思う。その結果、企画展は博物館入口の目の前の展示室で開催されているにも関わらず素通りしてしまう人や、一応覗きには来るが一瞬で見終えてしまう人が一定数いる。特に藻類のような馴染みのないテーマである場合、この傾向は強く出てしまうのではないだろうか。
そこで、私は展示解説員として、企画展の楽しみ方を伝えられるように心がけていた。上手く伝えられるように成長するにつれ、長時間かけて展示とじっくり向き合ってくださる方が増えている実感があり、これが展示解説をしていて最も嬉しかったことだった。企画展の見方を分かりやすく、共感できるように伝えられることができたら、企画展のテーマがどれだけ馴染みのないものであったとしても、企画展を楽しんでもらえるのではないだろうか。
最後に、「見た目で人を判断するな」という言葉があるが、この言葉は展示解説においてはその通りで、意外と小さな子どもが食い入るように興味を持ってくれたりした。誰に対しても平等に企画展の楽しみ方を伝えることは難しかったのだが、これができてこそ展示解説員なのだと考える。
髙橋佑希(文学部 文化人類学研究室3年)

 

自分にとって今回の展示解説プロジェクトは正しく学びの連続であり、来館者の方との交流によって標本に対する知識だけでなく自身の振る舞いや展示全体に対する理解が深くなっていく感覚を実感できるものであった。
最初のうちは適切な受け答えができず歯痒い思いをすることもあったが、各回のミニレポートの記入とそのフィードバックなどを通して、一緒に解説を行った人々の対応も参考にしつつ、改善点を考えながら展示と向き合っていくことができた。内容についても、何を伝えれば興味を持って鑑賞していただけるか、どこまで踏み込めば自由な見方を邪魔しないかというように、来館者の方の鑑賞体験をより良いものにするための表現を掘り下げて考えていくようになった。
また、解説を通して資料や展示に対する自身の見え方が変化することもあった。来館者の方からは「藻類の時間軸−私たちの始まりへ−」という展示タイトルの意味を問われることが多く、回答のためにことばの意味を深く考える中で展示全体のテーマを再確認することができた。同様に、解説を通して展示の構成や標本一つ一つが持つ背景などにより強い関心を向けるようになり、解説する中で資料に対する新たな視点に気付くということも少なくなかった。
自身の振る舞いには反省点も多く、優れた対応であったとは言い難いが、自分から歩み寄っていくことで来館者の方との対話が生まれるという経験は、博物館に対する見方とともに、自分自身の言動を見つめ直していく上でも重要なものになると考える。
三田尾有希子(文学部 芸術学研究室3年)