「視ることを通して」展示解説 受講生の最終考察

2018年度夏季企画展「視ることを通して」では、ミュージアムマイスター認定コース「学生参加プロジェクト」の一環として、北大生が展示解説に取り組みました。以下にプロジェクトを終えた学生がまとめた最終考察レポートをご紹介します。

 

私の記憶の中の「展示解説員さん」はあまりいい印象ではない。勝手な話ではあるが、自分のペースでゆっくり展示物を鑑賞したい私にとって、熱心に解説してくださる親切な展示解説員さんは有難迷惑だった。その私が「視ることを通して」展の展示解説をすることになったのだから、おかしな話である。

来館者は家族連れや外国人観光客、学生など多種多様であった。熱心な対応が吉の場合もある一方、介入しない方が来館者にとっていい場合もある。これは来館者の様子を見て、求められることを見極めるしかないため、とても大変だった。また、来館者の方からの質問に答えることも苦労した。鋭い質問も多く、答えられなかった質問は質問受付票を活用してお答えを返すようにしたが、その場で答えられないときは本当に申し訳なかった。

一方で嬉しいこともたくさんあった。特に来館者の「そうなんだ!」「面白い!」といった反応は、どれも鮮明に思い出される。そうした反応をもっと聞けるよう、解説のたびに振り返りをし、反省点は次回の解説で改善できるよう努力した。

来館者の記憶の中に私はどう残ったのだろう。楽しかった思い出に寄り添えているのならば幸いである。

(理学部 生物科学科4年 遠藤優)

 

私は今回の企画展の展示解説でさらなる解説力の向上及び解説員としてのキャリア育成を考慮して申し込んだ。以前5月から7月にかけて、常設展示の古生物の展示室で展示解説を行っていたのだが、解説力や対応力の未熟さを感じ、より精度の高い解説ができるような機会を探しており、その過程で今回の企画展展示解説に挑むことを決めた。

実際に8回にもわたって展示解説を行った結果、私は今回の企画展展示解説がこれまで行ってきた解説と全く異なり、自らの経験量を大きく伸ばすものであることが分かった。同じ博物館内での展示解説だが、解説分野のみならず目的や方法も常設展の時とは異なっていた。常設展では、テーマを一つ決め、そのテーマに合わせて展示室内の一部の標本を用いた解説を、複数の来場者に対象の常設展示の魅力を知ってもらうために行った。事前に説明したい分野に関する知識を身に着け、必要な資料を作成して本番に臨んだ。他者からの評価もあり、展示解説に必要な要素に対して情報交換をしながら多角的にアプローチすることができた。一方、企画展展示解説は基本的に展示室全体で解説ができるようにしておかなければならない上に、来場者に魅力を伝えるだけでなく展示に対して解説員とともに考えてもらうようにするという目的がある。毎回質問に対応できるように情報を入手し、対話形式を成立させるための話題提供を即時に実行する必要があった。1~3回目までは、慣れない企画展展示解説に戸惑いながらも、目的に合った自分なりの解説ができるように常に模索していた状態だった。またこの時期は8月で海外からの観光客も多く、アジア系の来場者が日本語話者かどうか判別できない私にとっては、英語力不足を痛感することになった。4回目以降は、約1か月にわたるブランクがあったものの、企画展展示解説の感覚をつかみ始め、来場者とのディスカッションに花が咲くようになったと実感した。自らの得意分野を織り交ぜた、自分だけの解説で来場者を楽しませられるようになったのではないかと考えるようになった。全体としては、自らの実力の躍進につなげられたと感じている。今回の企画展展示解説は、自らの解説力向上やキャリア育成に大きく役立ったと断言できる。ここでの経験を他の機会でも生かしていけるように、引き続き展示解説の機会を探して申し込むようにしていきたい。

(総合理系1年 大村颯)

 

私は文学部であるので、科学や生物に関する知識を来館者の方が楽しんでいただけるほど持っていなかったため、初めは非常に不安であった。しかし、事前の解説員向けの説明に参加することによって、その不安は解消することができた。解説員として博物館を訪れるたびに、来館者からの我々の予想を超える質問に答えるべく新しい解説資料が追加されていって、その度に解説をする側も学習と理解を深めた。それでも来館者に展示資料や企画展全体の趣旨を楽しんでもらうための準備はまだ不足していたと感じ、大いに反省している。

展示解説の良いところは展示資料を媒介して来館者とコミュニケーションを取ることができることだ。このような機会がなければ出会うことのできなかった、自分にはない視点を持っている人と会話を交わすことは、まだ経験の浅い学生にとっては掛け替えのない大切な機会であった。

また、北大総合博物館は本企画展の展示資料を用いた映像作品も展示しており、一見交わることのない科学と芸術を組み合わせる試みを行っていることは、人間が勝手に作り出した分野の固定概念を壊す素晴らしい試みであると感動し、同時に私も文理を超えた知識を身につけたいと改めて思った。

(文学部1年 上村麻里恵)

 

展示解説を通して、博物館への来訪という素敵な体験を来場者と共有するためには、来場者側の理解度や興味に合わせた解説を心がける事が重要だと学んだ。また、博物館には様々な背景を持つ人々が来るため、展示を介した来場者との対話は、私自身の考え方を成長させる機会を与えてくれた。

展示解説を行う前は、展示に興味を持った来場者からの質問を受けて解説するという状況が多いのではないかと予想していた。しかし、実際には展示解説員が来場者に解説をしていく過程で来場者に生じた疑問点について質問を頂く事も多かった。そのため、展示の魅力に気が付かないうちに足早に通り過ぎてしまうことも多い博物館において、展示解説員との対話は、一歩立ち止まって新たな視点から展示を見る機会を来場者に与えるのではないかと思った。

来場者から頂いた「ありがとう」、「面白かった」といったお言葉を胸に抱いて、今後の博物館活動にも積極的に取り組んでいきたい。

(薬学部5年 川名桃子)

 

企画展の解説員として展示解説をすることやスタッフの重要性について専門分野についての展示解説やコミュニケーションを通じて多くを学んだ。

無料でアクセスがよい大学博物館では、夏休みの小学生や、金曜の夕方のサラリーマン、外国人観光客など季節や時間帯によって来場者が変化し、その予定の見学時間や展示の好みが異なる。ただ解説するのではなく、来場者にとって話しかけやすい存在である名札を下げたその場の解説員は、来場者の動きを見て様々な配慮をする必要があり、例えばベビーカーを押される方、耳の不自由な方、外国人観光客が必要とする対応や、来場者が快適に博物館をまわるための大学の情報や関連のイベント、展示の質問への対応が求められた。また、解説文が読めない子供や外国人の方などの方には、体験型の展示で言語を越えた直感的な展示が有効である。展示の性質を理解して面白さを伝え、その企画展の雰囲気を作っていく解説員は博物館のスタッフの中でも展示の一番近くで来場者と接する存在であることを強く認識した。

(水産学部 海洋資源科学科3年 酒井涼香)

 

今回、初めて北大総合博物館の展示解説に参加した。これまでなかなかこのようなプログラムに参加する機会を作ることができなかったが、「視ることを通して」のヴィジュアルイメージについて考えるというテーマに興味を持ち、思い切って参加した。

実際に展示解説をしてみると、個々の展示物の魅力を伝えると同時に、その展示物によって紡ぎだされる企画展のテーマ、メッセージについても来館者に楽しんでもらうというのはなかなか難しかった。また、来館者がどの程度こちらの解説を望んでいるのかを見極めることにも苦労した。

しかし、こちらの解説がうまく伝わったと感じられるときや、展示を楽しみ、笑顔で展示室を後にされる来館者の方を見ると非常にやりがいを感じた。またこちらが解説をするばかりでなく、来館者の方が思ったこと、感じたことなどを語ってくれることもあり、学ぶことも多かった。

今回、展示解説に参加して、展示を通してコミュニケーションが生まれ、新たな発見をもたらすというミュージアムの可能性を、身をもって実感することができた。来館者の方との様々な交流から学べることはとても多かった。機会があれば、またチャレンジしてみたい。

(大学院文学研究科 歴史地域文化学専攻 修士課程1年 沼前広一郎)