【研究成果】デイノケイルスの謎を解決

1965年,モンゴルのゴビ砂漠でモンゴル・ポーランド古生物発掘調査によって腕だけで2.4mもある巨大な恐竜の部分骨格が発見されました。1970年に,デイノケイルス(“恐ろしい手”という意味)と命名されましたが,腕と肩の骨そしてわずかな体の骨しか発見されておらず,発見以降50年近く世界で今世紀最大の謎と言われる恐竜として知られていました。

2006年から2010年まで,韓国の出資により,モンゴル科学アカデミーと韓国地質資源研究院を中心に結成された国際恐竜調査チーム(日本,カナダ,アメリカなど)により,モンゴルのゴビ砂漠で恐竜発掘調査が行われました。そして2006年と2009年に,2体のデイノケイルスの骨格化石が発見されました。

発見までの経緯は以下のサイトをご覧ください。

「未知の恐竜を求めて(小林快次著:幻冬舎)http://www.gentosha.jp/category/michinokyoryu

小林快次准教授(総合博物館)らの発掘とは別に,デイノケイルスの頭骨・手・足が,モンゴルから日本へ密輸され違法に市場で売りに出されていました。この標本は,最終的にドイツに渡り,現在はモンゴルへと返還されています。返還を期に,私たちはこの標本も研究対象とし,2009年に採集した標本と比べたところ骨が一致し,同一個体であると判断しました。2009年に発見された標本は,タイプ標本よりも6%程大きく,2006年の標本の大腿骨は2009年のものよりも74%程小さい亜成体のものでした。


【発見の重要性】

1. 分類の解明

これまで,デイノケイルスの分類的・系統的位置は明らかになっていませんでしたが,今回私たちの研究の結果,獣脚類オルニトミモサウルス類の恐竜であることが明らかになりました。

2. デイノケイルスの巨大化

デイノケイルスは,全長11m,体重6.4tであると推定されています。オルニトミモサウルス類は,体が華奢で走行性の優れた足の速い恐竜であることで有名で,最大でもガリミムスの6mほどです。一方で,デイノケイルスは不思議な進化をしたことがわかりました。デイノケイルスは軽くなった体を走ることに使わず,巨大化へと利用し進化していきました。もともとオルニトミモサウルス類の骨は空洞が多く含気化・軽量化されていましたが,デイノケイルスは含気化を極め,竜脚類に匹敵する含気化を成功させました。その結果,走行性を捨て,他のオルニトミモサウルス類にはできなかった巨大化を可能とし,ゆっくりと動く恐竜へと進化したのです。

3. デイノケイルスの異様性

デイノケイルスは,大きな腕が有名です。今回の頭骨の発見によって,非常に前後に長い頭をし,大きな下顎を持つことがわかりました。キメラのような体をしていて,椎体は竜脚類のように含気化しています。魚食性で有名な肉食恐竜スピノサウルスのように背中に帆を持っており,この帆はディスプレイ(飾り)として使われたと考えられます。また,植物食恐竜鳥脚類ハドロサウルス科の様な足の末節骨を持っていますが,このような末節骨を持つ獣脚類は他にはおらず,湿地帯といった不安定な地面を歩くのに役立っていたと考えられます。

4. デイノケイルスの生活

大きな体やがっしりした足の骨と短い脛(すね)の骨から,デイノケイルスは素早く歩くことができない,足の遅い恐竜であることがわかりました。また,長い腕で,植物を集め食べていたようです。お腹には多数の胃(い)石(せき)が含まれ,植物を食べることが可能であったことが判明しました。お腹の中には魚の骨も含まれており,植物だけではなく,魚も食べていた雑食性の恐竜だったようです。

5. モンゴルの盗掘問題

現在,モンゴルでは多くの盗掘が行われています。貴重な標本が無惨にも破壊され,歯や末節骨(爪)だけが取り出され,国外へと密輸されています。残念ながら,多数の標本が日本でも違法に販売され,今回のデイノケイルスの頭骨なども日本にしばらく存在していたということです。実物標本の売買は,売る方だけではなく,買う方にも責任があります。幸運にも今回はモンゴルへと返還されましたが,密輸される標本は後を絶ちません。

【研究成果のポイント】

・今世紀最大の謎の恐竜デイノケイルスの全身骨格を2体発見。

・デイノケイルスの分類・系統的位置が判明し,オルニトミモサウルス類であることがわかった。

・デイノケイルスは,含気化(骨の空洞化・軽量化)を極め巨大化したオルニトミモサウルス類である。

・巨大な腕,前後に細長い頭,スピノサウルスのように背中に帆を持ち,竜脚類のように脊椎骨を含気化し,ハドロサウルス科のような足の爪(末節骨)を持つ,異様な恐竜であることが判明。

・がっしりした体をし,走るのが遅い恐竜で,雑食性である。

・モンゴルでは盗掘が深刻な問題であり,日本は大きな市場の1つとなっている。


デイノケイルスの復元画  服部雅人氏提供