ヒメエンマムシ属 Margarinotus Marseul, 1853

 Wenzel (1944) は,雄交尾器の形態の違いから,従来クロエンマムシ属 Hister と考えられていた多くの種をヒメエンマムシ属 Margarinotus に移した.雄交尾器の違いは,median lobeにmedian armatureと呼ばれる反転する骨片をもつことで,明瞭な形質である.しかし外見ではクロエンマムシ属の種と大きな差はなく,ヨーロッパのエンマムシ研究者は長いことWenzelのヒメエンマムシ属の概念を受け入れなかった (e. g. Mazur, 1973). Wenzel博士自身からも「ヨーロッパの研究者から強い抵抗があった」とうかがった.歴史の浅い米国での研究を,伝統をもった国々の研究者がなかなか受け入れないとのことだった.Ohara (1989) において,雌の貯精嚢 (spermatheca) と交尾嚢の位置が,ヒメエンマムシ属とクロエンマムシ属では異なることを示したので,Wenzelのヒメエンマムシ属の概念は現在ではより強固なものとなっている.

 エンマムシ族の属間を比べると,ヒメエンマムシ属のみが特殊な分類群のようで,私は「ヒメエンマムシ属」と「その他の属」で亜族レベルの違いがあるのではないかと考えている.生態も多様で,興味深い属の一つである.他属からは「鞘翅に完全な外副肩条 (external subhumeral stria) を持つこと」形質状態で日本産の種は区別できる.


ヒメエンマムシ属の種までの検索

(*印のついた種は検索形質に変異があり、交尾器による同定が確実である)

1(2) 前胸背の側方は強く平圧される(図3A,灰色の部分).後胸腹板の基節に挟まれる部分 (inter-coxal disk) は全体に粗く点刻をそなえる. ........... ヒラタカクヒメエンマムシ亜属

............ ヒラタカクヒメエンマムシ

2(1) 前胸背の側方は平圧されない.後胸腹板の基節間の部分は点刻されない(まれに後胸腹板側線にそって点刻をもつ).

3(20) 前胸背は2つの側条をもつ............ ヒメエンマムシ亜属

4(5) 前胸背の内側条は目の後ろで強く曲がる. ........... キノコエンマムシ

5(4) 前胸背の内側条は目の後ろで強く曲がらない.

6(17) 前胸腹板突起は縁どられない(carinal striaをもたない)(まれにstriola, weymarni, reichardtiでは痕跡的なstriaをもつことがある.しかしこれらの種の尾節はやや細かい点刻で密に覆われている.)

7(16) 体は大きく,体長は5.0から9.2ミリ.尾節の点刻は細かく密.

8(11) 後胸腹板の中央から外側後方へ走る側線は,斜めに外側から内側へ走る線と融合する.

9(10) 後胸腹板側板に長い毛をそなえる............ オオサワヒメエンマムシ*

10(9) 後胸腹板側板に毛はない.  ........... ニセヒメエンマムシ*

11(8) 後胸腹板の中央から外側後方へ走る側線は,斜めに外側から内側へ走る線と融合しない.

12(13) 後胸腹板側板に毛はない............ トウホクヒメエンマムシ*

13(12) 後胸腹板側板に長い毛をそなえる.

14(15) 前胸背の外側条の基部端は内側条の基部端を超える............ ヒメエンマムシ*

15(14) 前胸背の外側条の基部端は内側条の基部端を超えない............ エゾヒメエンマムシ*

16(7) 体は小さく,体長4.0から4.5ミリ.尾節の点刻は大きく疎............  ノッポロヒメエンマムシ*

17(6) 前胸腹板突起は縁取りされる(Carinal striaをもつ).尾節は粗い点刻をまばらにそなえる.

18(19) 前胸背内側条の内側には大きな点刻を密にそなえる............  ヘリテンエンマムシ

19(18) 前胸背内側条の内側には大きな点刻を密にそなえない. ..................... ハコネエンマムシ

19(2) 前胸背には1本の側条をもつ. ........... コエンマムシ亜属

........... コエンマムシ

アリクイエンマムシ亜属


エンマムシ科エンマムシ亜科エンマムシ族