作品紹介

―第1章 描かれた北大―

 第1章では、北海道大学構内を描いた作品を紹介します。北海道大学所蔵美術作品悉皆調査では、北大各所を描いた作品を28点確認しましたが、そのうち24点は、緑豊かな季節の風景でした。例えば、田邊至は画面の半分以上に青々とした草木を描き、繁野三郎は木々の葉や牧草が太陽の光に照らされ鮮やかに輝いている様子をとらえました。北大関係者はもちろん、北大と直接関係のない田邊や繁野などにとっても、北大の緑の風景は強く心惹きつけるものだったのでしょう。 このように緑豊かな風景がくり返し描かれるということは、ここがまさにひとつの理想的で誇らしい「学び舎」だったからです。それは昔も今も変わりませんが、とりわけ近年は、次々と新しい建物が建てられ、かつての面影を残すところも少なくなってきました。
画家たちが魅せられ、描いてきたものは何だったのでしょう。本章の作品群は、単にノスタルジーにとどまることなく、あるべきキャンパス像の再考を迫るもののようにも思われるのです。

クラーク先生像
エノレア.M.ジョンソン(生没年不詳)《クラーク先生像》1960年以前
キャンバス、油彩 59.0×50.0cm 大学本部事務局/総長室


 ウィリアム.S.クラーク博士(1826‐1886)の功績を称えて、北海道大学創基80周年の記念に設立されたクラーク会館の開館式(1960年)にあわせて、博士が学長を務めた米国・マサチューセッツ大学から贈られた肖像画である。本作の額縁は、同大学クラーク博士の研究室の窓枠から作られている。多くの写真に残されている威厳に満ちたクラーク博士とは違い、穏やかな表情で遠くを見つめる姿で描かれているのが注目される。本作は北大とマサチューセッツ大学の深い交流の証ということができるだろう。
北大農場
繁野三郎(1894-1986)《北大農場》1960年以前
紙、水彩 40.0×58.0cm 学務部/クラーク会館 財団事務室


 爽やかな初夏、雨上がりの第一農場が描き出される。牛たちは草を食み、木々は風にそよぐ。画面右の水たまりは茶色に飴色を置いてさらに青色が塗られ、空は雲の白色に淡い青色を重ねるなど、みずみずしい印象ながら、色の重ね方に作者の工夫が認められる。画面左下に「三郎」のサイン、額裏に「文栄堂より寄贈」の記載がある。作者の繁野三郎は札幌に生まれた水彩画家。道内水彩画界を牽引し、札幌師範学校の卒業生として図画教育にも熱心に取り組んだことが知られる。