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日本産エンマムシ上科概説
Taxonomic Notes of Japanese Histerioidea
大原 昌宏
このホームページは,「甲虫ニュース,113-122号に掲載(部分的に修正あり)」したものを元に,作成されています.
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エンマムシ上科Histeroideaは3科約4000種から構成される分類群で,日本からは114種が知られる.1994年末に私の学位論文(Ohara, 1994)が印刷となり,微小エンマムシであるアカツブエンマムシ族(既知種2種), ヨフシエンマムシ族(2), Eulomalus属(2)以外の分類群は,一応のまとめがなされた.しかし手元には南西諸島を中心とした微小エンマムシの未記載・未記録種がいくつかあり,すでに整理したものにもタイプ標本の確認をしたいものもある.分類作業はしばらくは続けなければならず,将来日本産は120種ほどに増えるのではないかと思う.
日本産エンマムシ上科に関しては中根猛彦博士の北隆館原色昆虫大図鑑(1963)による解説(48種を扱った)があり,近年では久松定成博士による保育社原色甲虫図鑑(1985)(96種)もある.これらの図説で多くの種が同定できると思うので,ここではそれらを補足する形で解説ができればよいと思っている.久松(1985)には検索も多く付されているので,以下に記す検索と併用してkeyを走らせていただければより同定が確実になると思う.ただしOhara (1994)で亜科間の系統関係を再検討し分類配列を変えたため,図鑑類と配列が異なり使いにくいかもしれない.その点はご容赦願いたい.必要に応じて図を載せるように心がけたが,紙面の限りもあり,図の載った再記載文献等を紹介するように勤めた.用語については久松 (1985),Ohara (1994)を参照されたい.
エンマムシ上科は1991/92年のZoological Recordからその姿を消し,ガムシ上科Hydorphiloideaの一部として扱われるようになった.この移動はLawrence & Newton (1982) による甲虫類の高次分類の再検討が影響しているもので,そこには従来の2上科を区別するだけの十分な違いはないと記されている.
従来のエンマムシ上科に含まれる3科が単系統を形成していることに意見の違いはないようなので,あとはどこで上科を区切るかという問題になる.Lawrence やNewton両博士のようにworldwideで虫を見て,高次ランクの系統を専門に扱っている研究者の方が他科とのギャップや分類群の大きさ,特異性などに敏感で適切な判断ができるであろう.彼らへの鋭い反論がない限り近い将来エンマムシ上科はなくなる.ここでは従来の「エンマムシ上科」を用いるが,今の私にこれに固執するだけの根拠は持ち合わせていない.私個人としては将来,さまざまな角度からガムシ,エンマムシの系統関係を再構築して自分なりの見解を作って行きたいと思っている.
1(4) 後基節は隔てられない.尾節(腹部背板)は1節が鞘翅から露出する.
2(3) 体形は縦長の丸みのある楕円.前頭−頭楯縫合線(frontoclypeal suture)をもつ.前胸腹板基部突起(prosternal process)は短い.鞘翅は細かい点刻列をもつだけで,深い溝はない.前小転節は露出する. ............ エンマムシダマシ科
3(2) 体形は縦長の筒形.前頭−頭楯縫合線をもたない.前胸腹板基部突起は前基節の下に隠れ,後端部のみこぶ状に見える.鞘翅は深い溝をもつ.前小転節は露出しない. ............ エンマムシモドキ科
4(1) 後基節は広く隔てられる.尾節は2節が鞘翅から露出する(例外:Acritus).前頭−頭楯縫合線をもたない(例外:Bacanius).前小転節は露出しない. ............ エンマムシ科
世界に1属3種(Sphaerites glabratus :ヨーロッパ,シベリア; S. politus: アメリカ,日本; S. dimidiatus: 中国).形態から他2科に比べ多くの古い形質状態が認められる(前頭−頭楯縫合線をもつ,翅脈状態,前小転節は露出,単純な脚など).ガムシ類とエンマムシ類の系統関係をさぐる上で重要な分類群であるため,もし採集された場合には,将来のDNAによる系統解析研究ができるように,乾燥標本ばかりでなく90%アルコールの液浸標本も作っておくべきだろう.幼虫は S. glabratusのものがNikitsky (1976)により知られたが,詳しい生活史などは知られてないので生態調査が必要.
エンマムシダマシ(図2)
Spaherites glabratus Fabricius , 1792
Spaherites politus Mannerheim, 1846: Adachi & Ohno, 1962: 149 [日本初記録]; Ohara, 1994: 59[再記載].
Lobl, 1996により日本産はS. politusではなくS. glabratusと同定された。
[北海道の高山帯(利尻,大雪,日高)から記録がある.生態的な詳細は不明. ヨーロッパのS. glabratusに似る.種の同定は図説(中根,1963;久松,1985:以下図説N, Hと略)で十分と思う.] (Ohara, 甲虫ニュース、113)
世界に5種が知られさらに未記載種が中米に2種いる(Syntelia histeroides: 日本,千島; S. indica : インド; S. mexicana: メキシコ; S. westwoodi: メキシコ; S. davidis: 中国 ). エンマムシダマシ科と共有の古い形質状態が多く認められる.明らかな分断分布(Disjunct distribution)で分類群の古さがうかがわれる.
エンマムシモドキ(図1, 3)
Syntelia histeroides Lewis, 1882
湯浅, 1930: 257 [再記載]; Ohara, 1994: 61 [再記載].
種の同定は図説で十分と思う.北海道道央部ではハルニレの樹液に多い.世界的には珍しい種なので欧米の研究者から交換の申し込みが多い.幼虫は林(1986),Mamayev (1974)によって記載されている.
世界に約3800種の既知種がいる.現在activeな分類研究者が10人ほどおり(inactiveも含めると30人ほど)年に約20-30種の新種記載がなされていることからも,将来4000種は越すのではないかと思われる.特に東南アジア,南米は最近分類の手がつけられていないため現代レベルでの再分類が必要とされている.
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