1-3-7-4 チビヒラタエンマムシ族 Paromalini
世界に10属約500種,日本からは6属14種がしられる.Eulomalus属に追加種が1,2ある.クロチビエンマムシ以外の日本産の種は樹皮下,朽木内に生息している.
属までの検索
1(2) 鞘翅には通常の背条がある. ............ クロチビエンマムシ属
2(1) 鞘翅は明瞭な背条を欠き,点刻を具えるのみ(まれに痕跡的な背条をもつ).
3(4) 前尾節に横断する線をもつ.後胸腹板側線は後方までのびない.脛節は偏平に広がる. ............ ハスジチビヒラタエンマムシ属
4(3) 前尾節に横断する線はない.後胸腹板側線は後方までのびる.前脛節のみ偏平に広がる.
5(6) 前胸腹板突起は縁取りされない(carinal striaを欠く). ............ ホソチビヒラタエンマムシ属
6(5) 前胸腹板突起は縁取りされる.
7(10) 前頭条は完全.
8(9) 前胸背の後縁に不規則な点刻列をもたない.体は偏平か筒状. ............ チビヒラタエンマムシ属
9(8) 前胸背の後縁に粗い点刻からなる不規則な列をもつ.体は卵型で盛り上がり厚みがある. ............ マルチビヒラタエンマムシ属
10(7) 前頭条は上唇の後ろで途切れる. ............ チャイロチビヒラタエンマムシ属
クロチビエンマムシ属
Carcinops Marseul, 1855
本属はKryzhanovskij and Reichardt (1976)ではオオマメエンマムシ族に含まれていた.Mazur (1973)はチビヒラタエンマムシ族に含まれると考え,私(大原・今坂,1988; Ohara, 1994)も同じ意見を示した.族の扱いはこれでよいと思うが,本属は他属(Platylomalus, Paromalusなど)とは「雄交尾器第8腹節の構造」「尾節に雌雄差をもたない」などの点で異なっており,亜族レベルの区別が必要かもしれない.
クロチビエンマムシ (図7C. D, 8)
Carcinops pumilio (Erichson, 1834)
Carcinops quatuordecimstriatus: 図説N: 68, f. 34 - 23. --------- Carcinops pumilio: 図説H: 224, f. 40 - 24; Ohara, 1994: 167 [再記載].
体長1.98 -2.57ミリ,幅1.30 - 1.74ミリ.鶏糞,豚糞,植物腐廃物,死体などから採集される.貯穀からも採集され屋内でも見られる.分布はコスモポリタンで,Mazur (1987)は南米に起源があり,そこから全世界に分布を広げたものと考えている.日本では北海道,本州,四国,九州,伊豆諸島,南西諸島,小笠原諸島から記録がある.
マルチビヒラタエンマムシ属
Australomalus Mazur, 1981
Mazur (1981)が創設した新しい属.「体形が卵型で厚みのあること」「前胸背後縁に粗点刻列をもつこと」を他属との区別点にしているが,雄交尾器や外部形態をみるとPlatylomalus, Paromalus, Eulomalusときわめて近縁な属である.4種が知られ日本(1種),ベトナム(1),フィジー(2)に分布する.
マルチビヒラタエンマムシ (図7E, F, 9)
Australomalus montivagus (Lewis, 1892)
Platylomalus montivagus: 図説H: 224, f. 40 - 26. --------- Australomalus montivagus: Ohara, 1994: 171 [再記載].
体長3.57 - 3.70ミリ,幅2.13 - 2.95ミリ.雌は尾節に深い皺状彫刻をもつ(図9C).体形から一見ツブエンマムシとハスジチビヒラタエンマムシに似るが,検索表に示した形質で区別できる.朽木内,樹皮下から採集される.分布:北海道,本州,四国,九州.
チビヒラタエンマムシ属
Platylomalus Cooman, 1948
世界に54種,日本からは6種が知られる.長楕円形で体長約1.5 - 3.2ミリで,Eulomalus, Paromalusに比べると大型.雌の尾節に種の特徴がでる.樹皮下に生息し,立枯れや伐採木の表面を歩いていることも多い.樹木との関係や生態的なデータは少ない.
1(4) 鞘翅縁条(marginal elytral stria)の先端は,側方,後方を経て会合部まで伸び,後方中央角で曲がり基方へ伸びる.
2(3) 中胸腹板の横線は富士山の様な線となる.雌の尾節は深い溝をもつ. ............................... ............................ フジチビヒラタエンマムシ
3(2) 中胸腹板は横線を欠く.雌の尾節の先端は密に点刻され溝は欠く. ................................ ............................. ツヤチビヒラタエンマムシ
4(1) 鞘翅縁条は会合部まで達しない.
5(6) 鞘翅は粗く点刻され,肩部分は大点刻による斜めの溝をもつ.中胸腹板に横線を欠く. ............ ..................... オガサワラチビヒラタエンマムシ
6(5) 鞘翅は均一に点刻され,大点刻は欠く.中胸腹板は横線をもつ(ヒメチビヒラタエンマムシは,時折横線を欠く).
7(8) 中胸腹板の横線は四角形.中脛節は3刺をもつ.後脛節は1刺.雌の尾節は大きな目玉状の彫刻をもつ. ............... クロチビヒラタエンマムシ
8(7) 中胸腹板の横線は,緩やかな曲線,時折中断される.中脛節は4刺をもつ.後脛節は2刺をもつ.
9(10) 体長は3.0 - 3.5 mm. 前胸の縁どりは前方でほぼ完全.雌の尾節は縁部をのぞき不規則な溝の彫刻をもつ. .......... オオチビヒラタエンマムシ
10(9) 体長は1.8 - 2.3 mm.前胸の縁線は前方で広く途切れる.雌の尾節は一対の曲線からなる彫刻をもつ. ..................... ヒメチビヒラタエンマムシ
フジチビヒラタエンマムシ (図2A,3A,4A, G)
Platylomalus fujisanus (Lewis, 1892)
図説 H: 224; Ohara, 1994: 174[再記載,♂交尾器].
体長(前胸背前角から尾節先端まで; mm)雄1.62 - 1.97, 雌 1.56 - 2.01, 幅雄 1.00 - 1.18, 雌 0.99 - 1.14.ツヤチビヒラタエンマムシに似る.分布:本州,九州.
ヒメチビヒラタエンマムシ (図2B,3B,4B, H)
Platylomalus mendicus (Lewis, 1892)
図説N: 69; 図説H: 225; Ohara, 1994: 177[再記載,♂交尾器].
体長1.87- 2.23, 幅 1.14 - 1.34.クロチビヒラタエンマムシに似る.分布:本州,四国,九州,隠岐,南西諸島.沿海州.中国.ベトナム.インド.台湾.インドネシア.
オオチビヒラタエンマムシ (図2C,3C,4C, I)
Platylomalus niponensis (Lewis, 1899)
図説N: 69; 図説H: 225; Ohara, 1994: 180[再記載,♂交尾器].
体長雄2.52 - 3.17, 雌 2.65 - 3.01, 幅雄 1.47 - 1.90, 雌 1.60 - 1.77.属内では日本最大の種で,中胸腹板の横線と体長で他種と区別できる.雌尾節は複雑な皺の彫刻をもつ.カツラの樹皮下.分布:北海道,本州.台湾.
クロチビヒラタエンマムシ (図2D,3D,4D, J)
Platylomalus persimilis (Lewis, 1888)
図説H: 224; Ohara, 1994: 184[再記載,♂交尾器].
体長雄2.03 - 2.50, 雌 1.76 - 2.35, 幅雄 1.15 - 1.39, 雌 1.03 - 1.37.ヒメチビヒラタエンマムシと似るが,黒色で,中胸腹板の四角をした横線と中脛節の1刺をもつことで区別される.雌尾節は円形の彫刻をもつ.分布:南西諸島.タイ(テナセリィウム).ベトナム.
ツヤチビヒラタエンマムシ (図2E,3E,E, K)
Platylomalus viaticus (Lewis, 1892)
図説H: 224; Ohara, 1994: 187[再記載,♂交尾器].
体長雄1.64 - 1.91, 雌 1.45 - 1.77, 幅雄 0.95 - 1.13, 雌 0.95 - 1.08.フジチビヒラタエンマムシに似るが,中胸腹板の横線と雌尾節の彫刻を欠くことで区別できる.分布:本州,九州.台湾.ハバロフスク州.
オガサワラチビヒラタエンマムシ (図1,2F,3F,4F, L)
Platylomalus kusuii M. Ohara, 1994
Ohara, 1994: 190 [再記載,♂交尾器,貯精嚢].
体長雌 2.09 - 2.60, 幅雄 1.26, 雌 1.20 - 1.50.鞘翅の肩部分に大点刻をもつこと,中胸腹板の横線を欠くこと,分布から他種と区別できる.分布:小笠原.
ハスジチビヒラタエンマムシ属
Pachylomalus Schmidt, 1897
東南アジアから日本にかけて,2亜属13種が知られる.亜属は頭部の前頭条が前方で途切れるものPachylomalus(6種)と,完全なものCanidius(7種)に分けられる.
ハスジチビヒラタエンマムシ (図5)
Pachylomalus (Canidius) musculus (Marseul, 1873)
図説H: 225, 40 - 25; Ohara, 1994: 193.
体長2.08 - 2.57, 幅1.27 - 1.72.土壌中より採集される.前胸背後方中央に「ハ」の字の溝をもつ.前尾節には明瞭な横溝をもつ.雌の尾節は先端が窪む.体型は卵型で,マルチビヒラタエンマムシと似るが検索により区別は容易.分布:本州,九州.台湾.ミャンマー.ベトナム.
チャイロチビヒラタエンマムシ属
Genus Eulomalus Cooman, 1937.
世界に24種,日本に2種が知られる.日本産は再検討がなされていない.下記の種のほかに未記録未記載種が2種ほどある.
ミゾチビヒラタエンマムシ
Eulomalus lombokanus Cooman, 1937
図説H: 225.分布:南西諸島.ロンボク島.
チャイロチビヒラタエンマムシ
Eulomalus tardipes (Lewis, 1892)
図説H: 225.分布:南西諸島.
ホソチビヒラタエンマムシ属
Paromalus Erichson, 1834
世界に60種,2亜属に分けられ,Paromalus(22種;新旧北区)とIsolomalus(38種;新熱帯区)がある.日本からは3種が知られる.雌の尾節に種の特徴がでる.Platylomalus属に比べ小型.
1(2) 鞘翅縁条後端は会合線まで達し,中央角で曲がり,基方へ伸びる. ...................................... ............................. ホソチビヒラタエンマムシ
2(1) 鞘翅縁条後端は鞘翅中央角まで達しない. .. ................................. コチビヒラタエンマムシ
この他に日本にはアカチビヒラタエンマムシがいる.
アカチビヒラタエンマムシ
Paromalus (Paromalus) omineus Lewis, 1892
図説H: 225.標本未検討.分布:本州.ブータン?.
ホソチビヒラタエンマムシ (図6A, C, E)
Paromalus (Paromalus) parallelepipedus (Herbst, 1792)
図説N: 69; 図説H: 225; Ohara, 1994: 199 [再記載,♂交尾器].
体長雄1.99 - 2.36, 雌 1.85 - 2.23, 幅雄 1.08 - 1.24, 雌 0.99 - 1.26.厚みがあり筒状に近い体型.モミ,マツ,ブナ,ヤナギの樹皮下から記録がある.
雌尾節は横楕円の中央が基方に突出した彫刻をもつ.分布:北海道,本州.ヨーロッパ.クリミア.コーカサス.シベリア.
コチビヒラタエンマムシ (図6B, D, F)
Paromalus (Paromalus) vernalis Lewis, 1892
図説H: 225; Ohara, 1994: 201 [再記載,♂交尾器].
体長雄1.42 - 1.62, 雌 1.39 - 1.66, 幅雄 0.83 - 0.98,
雌 0.76 - 0.98.雌尾節はハート型の彫刻をもつ.分布:本州,四国,九州,南西諸島.台湾.沿海州.