1-3-6. アリヅカエンマムシ亜科 Hetaeriinae

 本亜科は従来,Hetaerimorphiniと Hetaeriniの2族 に分類され,それぞれ82属256種,11属102種が記録されていた(Mazur, 1984).Helava, Howden & Ritchie (1985)は新大陸の本亜科を整理し,99属を確認し(15属が新属,3亜属が属に昇格,4属がシノニムで無効,3属が本亜科以外に所属移動;さらに旧大陸に分布を限る3属がある),そのうちの77属について属レベルの詳細な再検討を行った.さらに彼らは,従来の2族に分ける形質「触角が楕円形,または筒状」の実用は難しく,かつその族は系統的なグループでもないとし,新たに5つのグループへの分類を提示した.

 本亜科の正確な属数,種数は数えていないが,約100属350種ほどと認識しておけばよいのではないだろうか.1属1種のものが2/3ほどを占め形態分化の進んだ亜科といえる.ちなみにHelava et al. (1985) には77属の電子顕微鏡SEM写真による全体図がついており,コインのような偏平なものから瓢箪のように体のくびれたものまでアリヅカエンマムシ類の形態の多様さを実感させてくれる.すべての種がアリかシロアリと関係があり,いくつかの行動,生態の報告がある(H嗟ldobler & Wilson, 1990: 487にアリと関係するエンマムシ類のまとめ有).日本には1属2種が分布する.日本の種について詳しい生態の報告はない.


アリヅカエンマムシ属 Hetaerius Erichson, 1834

世界に30種,日本からは2種が知られる.

1(2) 体は赤または赤褐色.前胸背側方に皺はない............ アカアリヅカエンマムシ

2(1) 体は黒色.前胸背側方に皺を密にもつ............ クロアリヅカエンマムシ

アカアリヅカエンマムシ (図2A)

Hetaerius gratus Lewis, 1884

 図説 N: 70, f. 35-23. 図説 H: 230, f. 41-35; Ohara, 1994: 144 [再記載].

 体長(前胸背前縁から尾節末端まで)1.69 - 2.08ミリ,幅1.41 - 1.53ミリ.ツノアカヤマアリ・クロヤマアリ・エゾアカヤマアリ・アカヤマアリの巣から採集されている.春先のアリがまだ巣を地中深く掘る前には採集が容易らしい(黒沢,1976).アリの巣内の一箇所で回転するように素早く走り回り,擬死をする他のエンマムシ類とは相当に行動が違う印象を受ける.通常背面に長い毛をもつが,欠くものもいる.分布:北海道,本州,九州.

クロアリヅカエンマムシ (図2B)BB

Hetaerius optatus Lewis, 1884

 図説 H: 230, f. 41-36; Ohara, 1994: 146 [再記載].

 体長2.18 - 2.27ミリ,幅1.57 - 1.64ミリ.クロクサアリの巣から得られている.背面に長い毛をもつが,それが短い毛に置き換えられるものがいる.珍しい種で標本も少なく,生態,地理変異など詳しいことはわかっていない.分布:北海道,本州,四国.


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