マントルに潜む流体


 地球の全体積の80%以上はマントルが構成しています.ですから地球の現在の状態や未来を知るためにマントルを対象にした研究が日々活発に繰り広げられています.このマントルと呼ばれる層は岩石で出来ていますが部分的に流体が存在します.流体は様々な成分の運び屋になったりマントル構成物質の性質を変化させたりすると考えられていますので,その成分や起源の究明は地球科学の極めて重要な課題です.
 ここでは「マントル内の流体とは一体何者か?」という問いを討究するための材料を提供します.どうぞごゆっくりご覧下さい.


地球の内部はどのくらい解っているのか?

地球断面図の写真です  地球内部を大きく見ると3つの部分に分かれます.地表から数キロ~数十キロにある地殻(左図の茶色の薄皮),その下には地球のど真ん中までの距離の約半分を占めるマントル(左図の橙色部),そして核です(左図の中心の赤と白の部分).これらの境界は地震波速度の不連続面というもので推定されています.この地震波速度は,温度のほかに物質の化学組成や構造(結晶系など)によって変化しますので地震波速度の不連続面は物性の境界に当たると考えられています.ですから地殻・マントル・核はそれぞれ性質の異なる物質で構成されていると考えられています.
 地球深部の地震波速度分布や重力分布などを考え合わせると地球内部の密度分布が得られます.この結果から地球の中心部(核)は金属相であると分かりました.また,地球の一番外側にある地殻物質は地球表層付近に存在するので,その化学成分や物性,起源に関する研究は歴史も古く研究例も膨大です.しかし,その一方で中間にあるマントルに関する研究はまだまだ希薄で,マントルを直接調べるには造山運動で隆起し地表に露出したマントル岩体や,マグマに捕獲されて地表にもたらされたマントルのカケラを使うくらいしか今のところ術はありません.このようにマントルの研究は大変困難ですが,上述したようにその意義は大変大きいのでマントルの状態を調べる研究は日々一層活発になってきています.

流体包有物.写真の横幅は0.5mm
流体包有物の写真です
 このマントルと呼ばれる層は岩石で出来ていますが部分的に流体が存在します(左写真:たくさん見える黒い粒一つひとつがマントルの石ころに閉じ込められた流体です).流体は様々な成分の運び屋になったりマントル構成物質の性質を変化させたりすると考えられていますので,その成分や起源の究明は地球科学の極めて重要な課題です.


マントル中をうごめく流体

 海洋地域の下にある上部マントルは,中央海嶺玄武岩(MORB)やマグマに含まれるマントル起源の捕獲岩に関する様々な研究から全地球的にかなり均質(化学的に)であることが推察されています.ところが,大陸下の上部マントルはマントルを均質化させる対流から孤立していますし,更に大陸縁辺部や日本のような島弧下の上部マントルでは,沈み込んだ海洋地殻物質の様々な影響によって海洋地域の下にある上部マントルとは異なった状態を持っている可能性があります.この沈み込んだ海洋地殻物質の影響とは具体的にどのような過程を言うのでしょうか?
島弧における火山活動の発生メカニズムと組み合わせて,考えられているモデルに沿って簡単に説明します.


ウェッジマントルのイメージです 1.海洋地殻を構成する水を含んだ鉱物(含水鉱物)が地球深部へ沈み込む途中に様々な深さで分解し,脱水した水が直上のマントルへ染み込んでいきます.

ウェッジマントルのイメージです 2.水に染み込まれた直上のマントル内では含水鉱物ができます.そして,その含水鉱物を持つマントルは沈み込む海洋地殻とともに地球深部へと沈んでいきます.その途中で含水鉱物は次々に分解して沈み込むマントルの中で大量の水を放出しますが,比較的低い温度・圧力では水は動けないのでマントルを構成する鉱物の隙間に溜まったまま地球深部へと引きずり込まれていきます.

ウェッジマントルのイメージです 3.構成鉱物の隙間を水が通りやすい温度・圧力条件(青い領域)に到達すると,マントル構成鉱物の隙間に閉じこめられていた水はマントル中を上昇し始めます.

ウェッジマントルのイメージです 4.水は珪酸塩鉱物の硅素と酸素の結合を切りやすくしますので,大きく見ると珪酸塩鉱物の融点を下げる働きを持ちます.マントルの主要構成鉱物も珪酸塩鉱物ですから,水がマントル中を上昇すると付近のマントル構成鉱物を本来の融解温度・圧力条件以下で部分的に溶かす可能性が出てきます.実験的には深さ60~100km程度でマントルが水によって部分的に溶融すると指摘されています.ですから,マントル構成鉱物の隙間から解き放たれてマントル内を上昇してきた水がマントルの部分溶融可能領域(図中の赤い領域)に達したところで実際にマントルの部分的な溶融(マグマ発生)が起こると考えられます(図中の紅白模様の領域)そしてこのような過程は融解温度・圧力条件の低い鉱物をマントルから選択的に抜き取ることになり,更にその流体には不適合元素(鉱物より流体に分配されやすい元素)が濃集し,マントルの化学的な不均質を作り出すと考えられます.そしてこの化学的な変質はマントルの物理的な性質にも当然影響を与えると考えられます.

ウェッジマントルのイメージです 5.部分的に溶けたマントルはマグマです.溶融によって体積が増し,周りの岩石より密度が小さくなり,浮力を得て更にマントル中を上昇し,地表に噴出して火山を形成します.このようにマントルの中では様々な流体が駆け回り,そしてマントルの化学組成や物性はこれらの流体の振る舞いに大きく影響を受けます.それ故,マントル構成鉱物に含まれる流体を調べることはマントルを本質的に理解する上で欠かせません.しかし,マントル構成鉱物中の流体に関する研究は微細領域分析がはやりつつある現在においても極めて希薄であり,分析に成功しても起源がよく分からないという残念な研究例も多く,マントル流体の一般性についての議論はまだまだ難しい段階です.
 そこで我々は新たな知識や技術を駆使して,マントル流体の全貌解明に向け壮大なプロジェクトを立案し実行に移しつつあります.

 マントルの不均質についてもう少し知りたい方はこちらを御覧下さい.”大陸下マントル不均質”


マントル中を駆け回る流体

 このようにマントル中では様々な流体が駆け回り,そしてマントルの化学組成や物性はこれらの流体の振る舞いに大きく影響を受けます.それ故,マントル構成鉱物に含まれる流体を調べることはマントルを本質的に理解する上で欠かすことはできません.しかし,マントル構成鉱物中の流体に関する研究は微細領域分析がはやりつつある現在においても極めて希薄であり一般性についての議論はまだまだ難しい段階です.

 次ページからはマントルに潜む流体を探るための作法を考えたいと思います.

マントル流体の探り方