【セミナー報告】「日本海は進化のゆりかご−海藻と貝形虫−」

タイトル:「日本海は進化のゆりかご−海藻と貝形虫−」

講師:阿部 剛史(北海道大学総合博物館 講師)

日時:2016年1月9日(土)13:30〜15:00

会場:北海道大学 人文・社会科学総合研究棟1F W103番教室

 

講演内容

厳しい寒さの中、2016年最初の土曜市民セミナーにはたくさんの方がお越しくださいました。今回のセミナーのタイトルは「日本海は進化のゆりかご 〜海藻と貝形虫〜」で、講師の阿部剛史先生は「ウラソゾ」という海藻の日本海における種内分化を研究していらっしゃいます。

セミナーは、「天然物化学」という学問についての説明から始まりました。昨年、ノーベル賞を受賞された大村先生の研究を例として挙げられ、「天然物化学」とは「生物が作り出す化学物質(天然物)から、おもに人類に役立つ、新しい化合物を発見し、化学構造を明らかにして人工的に合成する学問」であるという説明をしていただきました。この天然物化学の中でも、近年開拓された「海洋天然物化学」という分野の発展の経緯をお話ししていただきました。

この海洋天然物化学の中で一大分野を成すのが、紅藻ソゾ属の含ハロゲン化合物です。

この含ハロゲン化合物は、ソゾがウニやアワビといった捕食者や海洋細菌への抵抗として合成すると考えられている化学物質です。別々のグループに分類されていた2種のソゾが同じ化学物質を合成したため、DNAから類縁関係を調べたところ、きわめて近縁であることがわかりました。このことから、この化学物質が海藻分類学にも利用できることが明らかになりました。

日本近海の固有種であるウラソゾは対馬暖流に沿って分布しています。ウラソゾは合成する化学物質の構造が大きく2種類に分類されることから、別種ではないかと考えられました。しかし、大きく異なる化学物質を合成するウラソゾ間でかけ合わせが可能であったことから同種であることが確かめられました。この合成する化学物質の違うそれぞれのグループは「ケミカルレース」と呼ばれています。

この化学物質の違いは、合成に関わる遺伝子の変異によるものです。対馬暖流が流れ始めたのは約1万年前からであることから、ウラソゾの種内分化はきわめて短期間で進んだのだと考えられています。生物の日本海における種分化の様子を探るために、阿部先生は金沢大学の神谷先生と共同研究をされていらっしゃいます。神谷先生は貝形虫の古生物学をご専門に研究されており、貝形虫の表面の孔が成長するにつれて増加するパターンから、貝形虫の系統を推定されています。貝形虫の種分化が、日本海が周囲から隔離される氷期に起こることから、貝形虫は暖かい海から寒い海への適応進化をするのだと考えられています。

ウラソゾの対馬暖流に沿ったケミカルレースは、ウラソゾがその地域ごとの環境に適応した結果であるため、日本海での種分化の途中であると見ることができるということを、お話しいただきました。

質疑応答ではたくさんの質問をいただきました。ウラソゾの種内分化というお話から、北海道沿岸のコンブもいつか別種になるのではないのか、という質問がありました。この質問に対し、阿部先生は、北海道沿岸のコンブである、マコンブ・ホソメコンブ・リシリコンブ・オニコンブは、実はマコンブという同一種であり、品種として形態等が異なるものだということ、もし環境が急激に変わったら、環境に適応したり種分化したりすることなく、その地域のコンブが絶滅してしまうだけである、と説明していらっしゃいました。その他にも、日本海の形成など多岐にわたる質問をお寄せいただき、一つ一つの質問に先生は丁寧にお答え下さいました。

セミナー終了後も、阿部先生に質問される方がいらっしゃるなど、盛況のうちに今回の土曜市民セミナーは閉演致しました。


(理学部1年 森本智郎、水産学部1年 小野寺翔太)

  

開演まで、会場前でチラシを配る2人               講演終了後(左から小野寺君、阿部先生、森本君)