山下俊介(前・研究部助教/映像資料学)

「みる」セクションの顕微鏡群

北海道大学総合博物館では、標本や文化史の収蔵品のほか、科学技術に関わる機器資料や文書等の記録資料も収蔵しています。北海道大学の教育研究の現場で用いられ、生み出されてきた資料群で、その一部を「科学技術史資料の世界」として 展 示しています。

当館3階の北側階段を降りる手前から、5つのセクションからなる展示がはじまります。まず、上皿天秤や高度計、風速計などからなる「はかる」セクションです。研究者が物事を科学的に扱う際、はかる(計測する)行為がその礎になります。多くの 方 が目をとめる茶 色い円筒状の機器、理学部陸水学研究室で用いられていた雨量計も展示しています。このセクションではさまざまな機器・道具類から「はかる」行為の広がりをご覧いただいています。

次に、顕微鏡群からなる「みる」セクションが続きます。当初は「顕微鏡の森」と見立てましたが、まだ木立状態かもしれません。顕微鏡は、研究者の「みる」行為を拡張してきた科学機器の代表です。ドイツから輸入されたライツ製の顕微鏡から、国産化に成功した島津製作所製の顕微鏡、その後の発展、といった時間的な流れと、解剖用顕微鏡、生物顕微鏡、偏光顕微鏡といった目的別で形状の異なる区分けで展示しています。展示キャプションでは製造時期などを示していますが、顕微鏡の機能的形状や意匠(単眼か双眼か、ステージや 鏡 台の形など)を見比べることでも、時代的な並びや用途分類が可能であることを体感していただきたいと考えています。実際の資料整理作業でも、他の大学や研究機関が所蔵していて、台帳などから購入年の判明している類似の顕微鏡と見比べることで、時期や目的等を推定することもあります。

「研究者の道具」セクションでは、研究者が書く(描く)ことや計算に用いた比較的身近な道具や機器を時代に沿って展示しています。計算尺から機械式の計算機、電子卓上計算機という計算機の流れと、紙とペン、あるいはレタリングセットや真弧(まこ)、タイプライター、ワードプロセッサという文書・描画作成機能の流れの2つがパーソナルコンピューターに集約していく様子が分かります。販売された製品であっても、研究者が実際に用いた点が当館所蔵資料の特徴です。

2階には「ある研究室から」セクションを設け、医学部生理学第二講座初代教授の朴澤進教授が使用した機器類を展示しています。この朴澤コレクションには機器だけではなく、実験ノートや機器カタログなどもまとまった形で残されており、それらを相互に突き合わせることで、当時の研究者の研究目的や実験機器の精度などを科学技術史的に検討することができます。

科学技術史資料を収集・保存する意味はどこにあるのでしょうか。ある一人の研究者を対象にしたとしても、日夜進められる学術活動の全貌をとらえることは困難です。また、ある時期に大学全体でどのような種類の研究が活発であったのかを横断的にとらえることも不可能でしょう。科学機器や関連資料・情報を数多く収集・保存することで、不可視の学術活動にアプローチすることができます。資料群をもとにして、科学技術の進展に寄与した技術、分野を越え広く用いられた手法や装置などを明らかにし、その先に学術活動の意味を考えることが可能になります。当館の科学技術史資料は、まだ十分な収蔵スペースを持っていませんが、資料の魅力と潜在力を発信して本学のコレクションを整備していきたいと考えています。

測風経緯儀(左)と雨量計(右)「はかる」セクション

展示セクション「ある研究室から―生理学第二講座朴澤コレクション」

現存する国内最初期の電気泳動装置 チセリウス式電気泳動装置HT-B型

『北海道大学総合博物館ニュース』38号(2019年1月)6ページより