【7月6日開催】 バイオミメティクス市民セミナー (第91回) – 『持続可能な社会とバイオミメティクスを考える その4 安心・安全、健康、医療』


イベント詳細

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「ナノピタの開発」

平川 聡史 先生(浜松医科大学 准教授)

ヒトは二足で歩行し、上肢の自由を獲得した数少ない動物の一つです。我々の手指は非常に発達し、日常生活に深く関わっています。一方、人間の社会には高齢化が訪れ、ここ数十年で、我が国でも長寿が実現しました。喜ばしい結果の反面、再び医療や福祉で対応すべき課題が生じました。がんの治療では抗がん剤が投与され、様々な副作用に苦しむことがあります。手指にも副作用が現れることがあり、日常生活に深く影響を及ぼします。例えば、指紋がなくなると物が掴みにくくなりなり、ガラスの瓶を滑らせて落としてしまいます。そこで、がん治療で失われた手指の機能を補うことが出来ないかと考え、患者向け手袋を開発しました。昆虫やヤモリは、ガラスの表面を滑ることなく歩行します。この理由は、脚の裏に繊毛があるからです。帝人フロンティアに、繊毛に似た形態を持つナノフロント®という新素材生地があることをバイオミメティクス研究開発によって知ることができました。この繊維を応用したら、滑らない手袋を作ることが出来るのではないか、バイオミメティクスの視点から生活に役立つ製品を医療社会に提供できるのではないかと考え、帝人フロンティアと連携して研究開発に取り組んで来ました。そして、患者用手袋”ナノぴた®”の開発に成功しました。今回は、このお話をしようと思います。

<略歴>

1996年  岡山大学医学部医学研究科(博士課程)で分子生物学などを学ぶ。

2001年  学位取得後、米国マサチューセッツ総合病院へ留学。がんの転移を研究。

2006年  国立四国がんセンターで、薬物療法による副作用対策(支持療法)に携わる。

2011年  浜松医科大学附属病院で支持療法に携わる。皮膚科専門医。

2015年  日本がんサポーティブケア学会で診療の手引きなどを作成(皮膚障害対策)。

2018年  光尖端医学教育研究センター ナノスーツ開発研究部で臨床研究に携わる。

 

「セミの翅を模倣した新しい抗菌材の開発」

伊藤 健 先生(関西大学 教授)

透明な翅を持つトンボやセミなどの翅の表面には目に見えないほど小さな凹凸が隙間なく並べられています。このような凹凸により、光の反射を無くし、樹木などの景色に溶け込むことができます。また、ハスの葉のように水をはじくことができるため、雨の中でも制限されることなく自由に飛ぶことができます。さらに、この構造には抗菌・殺菌作用があることがわかってきました。近年、薬剤耐性菌による感染症が原因で死亡する数が増加しており、化学的な作用ではない新しい抗菌材の開発が望まれています。昆虫の翅を模倣した新しい抗菌材は、構造のみの物理的な条件で細菌を殺すことができるため、薬剤耐性菌へも抗菌・殺菌作用が期待されます。講演では、これまでの研究で分かってきたことについて紹介したいと思います。

<略歴>

1995年 大阪大学理学部 宇宙・地球科学科卒

1997年 東京大学大学院理学系研究科 地球惑星物理学専攻修了

1997年 神奈川県産業技術総合研究所 技師

2007年 慶應義塾大学理工学研究科 総合デザイン工学専攻博士(工学)

2015年 関西大学システム理工学部 准教授

2018年 関西大学システム理工学部 教授