新井田清信(理学研究科助教授/岩石学・火山学)
箕浦 名知男(総合博物館助教授/古生物学)
地球・惑星の自然界にある無機質の固体物質を、広い意味で「鉱物」といいます。一般に、物理的・化学的にほぼ均質で、一定の性質をもち、ある限られた物理化学条件のもとで安定に存在します。現在までに、地球の固体物質(地殻・マントル)や隕石、生物中の無機物などから、約3,500種の鉱物が知られています。
鉱物の多くは、原子やイオンが一定の結合状態で規則正しく配列する内部構造をもっていて、「結晶」と呼ばれます。これが規則正しく配列していない物質は、結晶ではなく、ガラスのような「非晶質」物質です。
自然界の多くの鉱物は「岩石」の中に含まれています。マグマが固結してできた火成岩や地殻深部でできた変成岩などの岩石です。いろいろな鉱物が集合して固まり、自然界の岩石をつくっているのです。なかでも、かんらん石、輝石、角閃石、雲母、石英、アルカリ長石や斜長石などの鉱物は、SiO2が主成分になっている珪酸塩鉱物で、岩石中に普通に見られる「主要造岩鉱物」です。岩石中には、珪酸塩鉱物以外にも、(量的には少ないものの)良く知られた「副成分鉱物」が含まれています。方解石などの炭酸塩鉱物や磁鉄鉱、スピネルなどの酸化鉱物です。
理学部本館3階(東側廊下)には、主要な「造岩鉱物」が展示されています。ぜひ一度、造岩鉱物の色や形、結晶面などに注目して見てください。それぞれに個性的な特徴を見いだすことができます。この展示では、造岩鉱物の「固溶体」としての性質にこだわって、固溶体の端成分鉱物が紹介されています。なぜなら、主要な造岩鉱物のほとんどが固溶体であり、その化学組成や結晶構造の違いによって個性的な色や形がつくられているからです。SiO2が主成分になっている珪酸塩鉱物の場合、石英は固溶体ではありませんが、かんらん石、輝石、角閃石、雲母、アルカリ長石や斜長石も、すべてが固溶体なのです。固溶体とは化学組成を変化させることのできる鉱物のことですが、ここでは、かんらん石を例に簡単に解説します。
かんらん石の化学組成は、(Mg, Fe, Ca)2SiO4という一般的な式で表現されます。M2TO4という構造式で書くこともできます。これらの式は、「どのような原子やイオンがどのように配列しているか?」、かんらん石の化学組成と結晶構造のことを理解しやすいように工夫された表現です。かんらん石の結晶構造は、1個のSi(ケイ素)に4個のO(酸素)がくっついて1つの島(TO4)をつくり、Mg2+、Fe2+、Ca2+などの二価の金属イオンが島と島の間にあるMサイトと呼ばれる位置に配列してつくられています。Mサイトに配位する二価の金属イオンは、島(TO4)1個につき2個分占有できますが、Mg2+でも、Fe2+でも、Ca2+でも、イオン半径の近いもの同志であれば自由に置換できます。ここで、「どの金属イオンが、どの程度Mサイトを占有できるか?」いいかえれば「Mg、Fe、Caの割合がどうなるか?」、つまりかんらん石の化学組成を知ることがとても重要になります。なぜなら、その割合(占有率)は、かんらん石の結晶ができるときの温度や圧力などによって規則正しく変化するからです。この関係は実験によって確かめられていますので、例えば「かんらん石ができた結晶作用の温度や圧力」について「かんらん石の化学組成」を分析することによって推定することができるのです。
さて、「造岩鉱物」の展示ブースには、固溶体の端成分の鉱物が数多く並べられています。かんらん石を例に、良く知られている端成分を紹介しましょう。Mg2+がMサイトを100%占有したかんらん石の端成分は、フォルステライト(forsterite)と呼ばれるMg-かんらん石(Mg2SiO4)です。Fe2+が100%占有するFe-かんらん石(Fe2SiO4)はファイアライト(fayalite)と呼ばれ、Ca2+とMg2+が50%づつ占有する、Ca-かんらん石(CaMgSiO4)はモンチセライト(monticellite)と呼ばれています。自然界に産出するMg-かんらん石は、オリーブグリーン色の美しいかんらん石で、かんらん石の中でも最も高温の条件で晶出します。Mg-かんらん石は、高温の玄武岩質マグマから最初に晶出する代表的な鉱物として良く知られています。低温になるにつれて、Fe2+がMg2+を置換して、Fe-かんらん石(Fe2SiO4)成分に富むようになります。また、Ca-かんらん石は、地殻に迸入したマグマの熱で焼かれた石灰岩などの高温変成岩に産出し、特殊な生成環境でつくられる鉱物です。
地球や惑星の岩石をつくる鉱物は、その多くが複数の端成分の間で化学組成を変化させる固溶体です。それは、かんらん石に限りません。輝石も、角閃石も、雲母も、長石も、主要な造岩鉱物のほとんどが固溶体なのです。理学部3階廊下の展示ブース「造岩鉱物」を覗いていただき、鉱物の色や形を観察しながら結晶の仕組みや結晶の生成環境に思いをめぐらせてみてください。
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| フォルステライト(Mg-かんらん石)。産地はパキスタン北部コヒスタン帯。別名ペリドットと呼ばれ、8月の誕生石になっている。 | 展示ブースの中の雲母標本。金雲母などの代表的な端成分標本。 |
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| 展示ブースの中の長石標本。正長石などの代表的な端成分標本。 |
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| 展示ブースの中の角閃石標本。透閃石などの代表的な端成分標本。 | 十字石。産地はロシア北部コラ半島。展示ブースの中の「副成分鉱物」標本の一例。 |
− 北海道大学総合博物館ニュース 第5号 (2002年3月) −