マントル捕獲岩とは?


マントル捕獲岩噴出のイメージです  「捕獲岩」という言葉があります.意味は「捕獲された岩石」です.何に捕獲されたかと言うとマグマです.すなわち,マグマが地球深部から上昇し地表へ噴出するまでの間のどこかで”捕獲され運び上げられた岩石”のことを捕獲岩と言います.もしマグマがマントル内で発生し,比較的速く上昇すれば,途中のマントルを引っ掛けて地表へ運び上げるかもしれません.そのようにして地表へもたらされたマントルの岩石の事を「マントル捕獲岩」と呼びます.

マントル捕獲岩のイメージです  最上部のマントルを構成している岩石はレルゾライトです(右図).

 主要な構成鉱物は

カンラン石のイメージです カンラン石(黄緑色)

斜方輝石のイメージです 斜方輝石(コーヒー色)

単斜輝石のイメージです 単斜輝石(鮮やかな緑色)

で,少量のスピネル(もしくは斜長石やガーネット)を含みます.鉱物の直径は0.1mmから1cmまで様々ですが,ほとんどの鉱物は1mm程です.カンラン石も斜方輝石も単斜輝石も全て宝石もしくは準宝石で非常に美しい鉱物です.スピネルもクロムを多く含むものはルビーのような色を呈し宝石として扱われます.実際に英国王室やロシア皇室の王冠を飾る主要な宝石はスピネルです(実はルビーと間違って飾られていたのです).ガーネットも良く知られた宝石ですからマントルは極彩色の宝石の世界と言えましょう.


マグマより重いマントル捕獲岩がどうして上がってこられるのか?

 マントル捕獲岩はとんでもなく珍奇なものというわけではないでしょう.なぜなら我々の足の下数十kmにはどこにでもマントルがあるはずなのです.ですからマグマさえ上がってくれば世界中どこでもマントル捕獲岩だらけになるような気もします.しかし,日本ではたった十数ヶ所でしか見られません.日本には活火山だけでも86を数えます.最近1万年以内に噴火した火山だと122にもなります.でもマントル捕獲岩はたった十数ヶ所でしか見られません.どうしてなのでしょうか.マントル捕獲岩はどういう機構で地表へもたらされるのでしょう.

 鍵は,マグマの発生深度と粘性,速さです.

 マグマの深さとはマグマがどこから来たかという意味です.当然ですがマントルの岩石を引っ掛けるにはマントル内かそれより深いところで発生したマグマが必要です.どうやって見分けるかと言いいますとマグマの化学組成を使います.マントルが溶けてできたマグマの化学組成は珪酸塩に比較的乏しく,鉄やマグネシウムに富んでいます.そのような化学組成のマグマを玄武岩質マグマと呼びます.このような組成の溶岩が見つかればマントルの岩石が捕獲されている可能性が高いのです.
 次に速さです.なぜマグマの速さが重要なのかと言いますとマントルの岩石はマグマより重いからです.つまり,マントルの岩石がマグマに引っ掛けられてもそのままだとマグマの底に沈んでしまいます.ですからマグマの上昇によって持ち上げられる事が重要で,その機構にはマグマの上昇速度が密接に絡んでいます.単純なモデルでマントル捕獲岩の上昇速度を概算してみましょう.
 極東ロシアに産するマントル捕獲岩を例にして考えてみます.極東ロシアには直径10cmにも及ぶマントル捕獲岩が産します.もしこの直径10cmのマントル捕獲岩(球状と仮定します)が上昇するマグマの中に浮かんでいたとします.つまり,上昇するマグマの中で沈みもせず浮かびもしない状態です.この時,もっと小さいマントル捕獲岩なら上昇する事ができます.なぜなら小さいマントル捕獲岩は質量が小さいわりに表面積が大きいので上昇するマグマの力を受けやすいからです.で,「ナヴィエ-ストークスの方程式」という公式を使って計算すると直径5cmのマントル捕獲岩なら毎秒0.5mm(時速1.8m)で上昇する事になります.極東ロシアの地殻の厚さはだいたい35kmですから,マントル最上部から地表まで800日ほどで上昇する事になります.極東ロシアには20cm近い直径を持つマントル捕獲岩も存在します.このようなマントル捕獲岩がマグマ中に浮かんでいる条件を想定すれば,直径5cmのマントル捕獲岩は140日ほどで地殻中を駆け登ったことになります.そして,実際にその直径20cmのマントル捕獲岩も地表までもたらされた事実を勘案しますと,直径5cmのマントル捕獲岩はもっと短時間(例えば数十日)で地表まで上昇した事になるでしょう.
 では,マントルから地表まで持ち上げられるのに掛かった時間であるこの数十日という数字は妥当なのでしょうか.2つの数字がこの計算の検証に使えます.一つはカンラン石中のマグネシウムの拡散係数です.マントル捕獲岩を電子顕微鏡で観察すると,マグマが接している部分の化学組成に勾配が見られます.これはマントル捕獲岩を構成する鉱物とマグマが化学的に非平衡(不安定)の状態にあることが原因で,化学組成の勾配は,平衡になるように元素が移動している途中である事を示します.この元素の移動速度を拡散速度と呼びカンラン石中をマグネシウムが移動する速さはおよそ1e-13cm^2/s(1150度)と表されます.極東ロシアのマントル捕獲岩を構成するカンラン石に見られる組成勾配の幅は10ミクロンほどです.この距離をマグネシウムが動くには100日ほど掛かります.先程の計算で見積もったマントル捕獲岩の上昇期間の数十日よりはかなり長い時間ですが,マグネシウムの移動はマントル捕獲岩は地表にもたらされてからも完全に冷えるまでは続くので,この100日という時間はマントル捕獲岩がマグマに引っ掛けられて地表にもたらされ,そしてマグネシウムが動けなくなるほど冷却するまでの期間を示していることになります.ですからマントル捕獲岩の上昇時間はこの100日よりは短いはずですし,数十日という可能性も十分考えられるでしょう.
 二つ目の検証法はカンラン石と輝石中の流体包有物の密度差を用います.流体包有物とは鉱物中に保持されている流体の事です.鉱物が成長する時に周りに存在していた流体を閉じこめたものと考えられています.流体包有物の項で詳細に説明しますが,マントル捕獲岩が地表へ運ばれる途中,流体包有物はマントルにいた時の圧力を保持しています.しかし,流体包有物を保持している鉱物の持つ圧力は地表へ近づくに連れて減少していくので,流体包有物と鉱物との間に圧力差(差応力)が生まれてます.カンラン石は輝石よりこのような力に弱いので,カンラン石中の流体包有物はどんどん拡がりその密度が低下します.その一方で輝石中の流体包有物はほとんど拡がりません.この過程で流体包有物がどれくらい拡がるかは時間に依存しますから,カンラン石と輝石に含まれる流体包有物の密度差を調べればマントル捕獲岩が地表に近づき差応力が生まれてから冷却することで変形が止まるまでどれくらいの期間経たかが分かります.概算ですが,極東ロシアのあるマントル捕獲岩の場合は10日前後という事になります.なかなか面白い数字が出てきました.
 これらの計算をまとめますと,ナウィエ-ストークスの方程式を用いて計算したマントル捕獲岩の「上昇時間」は数十日.流体包有物の密度から導いた「冷却時間」は約10日.マグネシウムの拡散係数から求めた「上昇+冷却時間」は100日未満.なんとなく落ち着いた数字に収まりましたね.ダイアモンドを含むキンバライトというマグマが数時間でマントル深部から上昇するのに比べると物凄く遅く感じますが,極東ロシアのマグマも硬い岩盤を割りながらマントルから数十日で上がってくるのですから大したものだと思うのは私だけでしょうか.


マントル捕獲岩の採り方

 下の写真は様々なマントル捕獲岩産地の様子です.現地に到達するだけでも大変なのですが,マントル捕獲岩の採取は宝探しみたいで実に楽しいものです.


マントル捕獲岩採取風景の写真です
マントル捕獲岩は写真上方に見られる岩体に入っている.細雨の後の猛暑.汗が止まらなかった.

マントル捕獲岩採取風景の写真です
マントル捕獲岩が見えているがどうやって掘り出すか悩ましい.

マントル捕獲岩採取風景の写真です
小粒だけどたくさんある.採りまくり!

マントル捕獲岩採取風景の写真です
と言うことでまずは乾杯.ぬるい!

マントル捕獲岩採取風景の写真です
たくさんあるんだけど上からの落石が恐ろしかった.

マントル捕獲岩採取風景の写真です
ブツは上の方にあるんだが,よく滑るのでなかなか登れない.

マントル捕獲岩採取風景の写真です
ドイツを代表する岩石学者(シュミンケ教授)が率いる地元の大学チームとの合同調査.しかし,探せど探せどちっとも採れない.それもそのはず,前日に我々が採り尽くしたのだ.その大量の試料は車のトランクに詰め込み隠した.車のライトがハイビーム状態になっていたのでバレていたかもしれない.

マントル捕獲岩採取風景の写真です
街が近くにないと野宿します.犬は動物除けのためです.

マントル捕獲岩採取風景の写真です
街がないということは道もありません.装甲車両で侵攻します.

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