山本順司(元 研究部准教授)

図1:展示室のレイアウト

2017年8月4日に設置された、鉱物や岩石標本を紹介する常設展示室「鉱物・岩石標本の世界」を紹介します。鉱物や岩石を扱う地球科学分野は、地球自体を研究対象とする学術分野です。そのため、皆さんを取り巻く空気や磁場、土壌,海など環境と呼ばれる空間そのものを凝縮して紹介することを目標にしました。展示室開設時に収めた標本は鉱物106点、岩石178点、化石9点、科学機器43点、原油や砂漠の砂など22点、総数358点となりました。 展示室は3階アインシュタインドーム前にあり、15.0 m × 6.4 m(96 ㎡)の大きさを持ちます。

展示室は2つの展示エリアに大別され、1つは 鉱 物エリア(29 ㎡)、もう一 つ は 岩 石エリア(67 ㎡)となっています(図1)。2つの出入り口を設け,動線上最初の出入り口は鉱物エリアにつながっています(写真1)。鉱物エリアでは,鑑定を切り口に鉱物の定義や特性、多様性をご覧いただきます。鉱物エリアを動線通りに観覧していくと、行く手に岩石エリアが現れます(写真2)。真正面の展示ケースには見慣れた地表付近を象徴する岩石標本が並びますが、少し視線を上げると、右手壁面に扇型をなす100万分の1スケールの地球断面図が映り、その縁を彩る光に誘われて正面の壁面に視線を移すと、46億年の地球史を4.6 mのパネルで表現した地球史年表が目に入ります。この2枚のパネルはそれぞれ地球の空間スケールと時間スケールを感じていただくために作成したもので、それぞれが持つ時空間スケールに調和するように岩石や科学機器などを配置しました。

写真1:入口から見た鉱物エリアの様子

写真2:鉱物エリアから遠望した岩石エリアの様子

しかし、地球科学で扱う時代や場所は日常生活ではほとんど意識しない領域だと思われます。例えば、100万年前や地下100 ㎞という言葉を耳にしても、それらがどれくらい古い時代なのか、また、どのような場所なのかを認識することは容易ではありません。そこで、地球科学の時空間スケールを認知しやすくするよう、芸術分野でよく使われるAnalogy法を取り入れることにしました。

Analogy法は類推的拡張と訳されることもあるように、なじみのあるスケールから徐々に拡大または縮小することで、対象物の大きさを認知しやすくする手法です。地球断面図に取り付けた仕掛けは富士山のジオラマです(写真3)。100万分の1スケールのパネル上に設置した場合、その高さは約3.8 ㎜になります。地球内部の様々な場所の深さについて、その絶対値を評価することは困難かもしれませんが、この富士山と見比べることで、地球だけでなく、環境という言葉で呼んでいる空間の大きさを感覚的にとらえていただくことを狙いました。一方、地球史年表については年表自体がAnalogy的な表現になっているため、それ以上の措置は施しませんでした。例えば、人類の時代として再定義された第四紀が始まった約260万年前は、この年表では現在(左端)からわずか2.6 ㎜に位置します。この人類史(2.6 ㎜)を基準に地球史(4600 ㎜)を見晴らしつつ、環境という言葉で呼んでいるモノの持続可能性やそれを支えている地球内外の要素について想いをはせていただくことができればと願っています。

写真3:富士山のジオラマ

『北海道大学総合博物館ニュース』37号(2018年6月)8ページより